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白光 (光文社文庫)

白光 (光文社文庫)

ごく普通のありきたりな家庭。夫がいて娘がいて、いたって平凡な日常、…のはずだった。しかし、ある暑い夏の日、まだ幼い姪が自宅で何者かに殺害され庭に埋められてしまう。この殺人事件をきっかけに、次々に明らかになっていく家族の崩壊、衝撃の事実。殺害動機は家族全員に存在していた。真犯人はいったい誰なのか? 連城ミステリーの最高傑作がここに。


ドロドロと粘度の高い液体のような作品。厭々、口に運んで飲み込もうにも喉を通らない。物凄く不快なはずなのに、その不快にもやがて慣れてしまう…。
まるで迷路のような構成。正しい道なのかと思って読み進めても、論理の行き止まりが待ち構えている。ただ、その道を通ることが無駄かといえばそうではない。この道が間違っているという確信が得られる。そして次の道に進める。少しずつ道が明らかになりたどり着くゴールとは…。 家族のそれぞれの独白が続くので、物語に動きは少ない。事件はただ一つ。誰が少女を殺したのか、だ。道は進むほど暗くなる。だけど奇妙な魅力で読み進めてしまう。あの強すぎる光の中で何が起こったのかを知りたくて…。日の光は本来は暖かいはずなのに、冷たさを感じる白い光。読書中に何度もこの光の静かさを確かに感じた。夏の話なのに薄ら寒さを感じながら。
事件の発生は一つの事象に過ぎない。ある夏の日に、ずっと形而上に漂っていたものが、ふとした隙に形而下に表れただけ。ただそれだけ。しかし、それ故にとても怖い。一見、普通の家に人のエゴだけが充満する。窒息しそうな気持ちになった。登場人物たちはその息苦しさを誰かに担ってほしかったのだろうか。
(ネタバレ:反転→)上記の迷路の例えで言えば、この話は複数の入口から中央のゴールを目指す迷路だ。誰もがゴールを望んでいる心の迷路。しかし他の人が同じ迷路に迷い込んで、同じゴールを目指していることを誰も知らない迷路。参加した誰もが少女を殺した。誰にでも理由(動機)はあった。だけど一人を除いて直接少女そのものを殺したかったわけではない。少女の存在の向こう側が憎かったのである。少女はただの象徴だった。この物語の不幸はそこにある。「死を期待すること」と「殺害すること」、そこに大きな違いはない。(←)

白光びゃっこう   読了日:2005年11月10日