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夏の日のぶたぶた (徳間デュアル文庫)

夏の日のぶたぶた (徳間デュアル文庫)

中学二年の夏休み。菅野一郎は、父親の経営するコンビニの手伝いをしながら、毎日を過ごしていた。そんなある日、配達を頼まれたのは、近所の“幽霊屋敷”と呼ばれている家。勇気をふりしぼって行くと玄関から出て来たのは、“ぶたのぬいぐるみ”だった。実家に帰ってしまった母親。どことなく元気のない幼なじみの少女。いつもとちょっと違う夏休み。子供以上大人未満な少年時代をやさしい筆致で描く書き下ろしハート・ウォーミング・ノベル。


ぶたぶた氏の父性を感じられる一冊。実は今回、ぶたぶた氏の活躍場面は少ない。主人公の少年をそっと見守るだけで、悩みの解決に実質的な手は貸さない。けれど、その眼差しや態度は大人の男性のソレである。少年・少女といる時のぶたぶた氏はちょいカワイイオヤジである。「ちょい」どころではないが(笑)
主人公の少年は背ばかりは既に父親と同じぐらいに伸びたが、心の方はまだまだ成長途中の中学2年生。この身体と心のギャップが、家族の一大事や、幼なじみの小さな変化に気づきながらも一歩を踏み出せない原因でもある。子供の頃のように無邪気に会話も出来ず、大人のように迷わず行動したり、自分の内側で完全に物事を処理したり出来ない。結果、物分かりのいい振りをして黙ってやり過ごすだけ。それが自分のストレスになり、事態を硬化させてしまう。
少年は自分の悩みを直接はぶたぶた氏に語らない。そして、ぶたぶた氏も多くは口を挿まないし、気づいている事も言わない。それは自分で気づかないと意味のない事だから。だから今回、ぶたぶた氏は飽くまで脇役・傍観者に徹している。だが、その一歩引いた視線にぶたぶた氏の大きな存在感・包容力を感じた。
欲を言えば、ぶたぶた氏のアクションのバリエーションがもっと見たい。お風呂(洗濯?)や料理、豚の共食い(?)食事シーンなどはこれまでのシリーズでも読んできた。ここで新たなぶたぶた氏の特徴を踏まえた、思わず笑えるシーンがファンとしては欲しい。体調を崩して手術するぶたぶた氏とか。うーん、可哀想か…。
本書は今までのシリーズとは違い、ぶたぶた氏などがイラストとして挿まれていたり、多くの漢字にルビが振られている。より「ヤングアダルト作品」らしい構成になってきた。もちろん若い人だけでなく老若男女、誰でも楽しめる作品。

夏の日のぶたぶたなつのひのぶたぶた   読了日:2006年11月09日