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ぶたぶた (徳間デュアル文庫)

ぶたぶた (徳間デュアル文庫)

大きな耳の生えたピンクのバレーボールが、とととと……と階段を駆け下りてゆく。右耳が少しそっくり返り、つぶらな目は黒目の点目。何だあれは、ぶたのぬいぐるみっ!?そう、彼は生きているのです。彼の名前は、山崎ぶたぶた(性別♂)。歩き、喋り、食事をし、見かけによらず仕事は優秀。そしてなによりもの特徴は、とってもかわいいこと。タクシーの運転手、フランス料理のコック、サラリーマンなどなど、さまざまなシチュエーションでぶたぶたと出会ってしまった人間たちの姿と心の動きを描いた連作集。


各所で評判の「ぶたぶた」。かっ、かわいい!! 黒目・ぬいぐるみ系・フワフワ系に弱い私の心は一瞬で貫かれてしまった。これは殺人的かわいさ。私は徳間デュアル文庫版で読んだのですが、表紙の「ぶたぶた」各短篇の「ぶたぶた」の写真がかわい過ぎる…。これが動いて喋って物を食べるのだ。やっぱり「欲しい!」と思ってしまったよ。偏見かもしれないけれど、作者が男性で、傷ついた登場人物の女性を元気づける美少年・美青年とかだったら冷めていたと思う。お手軽な甘い話を書いて読者を感動させようとしてるんだな、とひねくれた私は思うだろう。しかし「ぶたぶた」である。感動もあるが、それをしのぐインパクトと可愛さ。
最初はよく把握できなかったけれど「しらふの客」ぐらいから完全に心を奪われ、ほのぼの楽しく読んでいた。が、「殺られ屋」の短いながらも凝縮されたドラマ、「ただいま」の読んでいる間ずっと泣く一歩手前のような感覚、そして「桜色を探しに」の「もしかして…」を掬い上げてくれる心地良さ。最後の短篇では東京創元社の本を読んでるのかと思いましたよ(笑)最後の短篇はこの本を読めた喜びを何倍にもしてくれた。途中までは「ぶたぶた」の正体や物語の整合性ばかりに目がいっていたけど、最後には「ぶたぶた」を全部受け止めていた。多分、物語上で「ぶたぶた」に会う人も同じ気持ちだと思う。「ぶたぶた」は「ぶたぶた」なのである。ザムザが朝起きたら虫になっているぐらい不条理な「ぶたぶた」の存在だけど、比べ物にならないぐらい牧歌的だ。変身するなら「ぶたぶた」か仮面ライダーだね。
読んできて気がついたのは、文章がとても読みやすい事。突っかかる事のない簡素な文章。それでいてよく練られていて笑えて泣ける、素敵な文章である。そして展開が面白いので、アッという間に読めてしまう。「ぶたぶた」シリーズはまだ何作かあるらしいので近々、私を虜にした山崎ぶたぶた氏に再会するだろう。

ぶたぶた   読了日:2005年07月24日