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黒猫の三角 (講談社文庫)

黒猫の三角 (講談社文庫)

一年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、六月六日、四十四歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作。


新シリーズ第1作目。熱烈なS&Mシリーズファンである私は多少の不安を胸に読んだのですが、面白かった! なんだ森さん本格ミステリもいけるじゃん! と生意気にもそう思いました。『地球儀のスライス』で登場した練無君を始め、登場人物の既にキャラが出来上がってるから楽しいのでしょう。後半よりも紅子さんのキャラクタがややきついかな?と思いますが。騙される快感再びって感じです。今回は、特に驚いた。相変わらず盲点を突いてくる。顔の真横にきて初めて飛んできた物体が何なのか分かった、という感じです。危険球を投げ続ける森さん、好きです。
この本は森さん自身も本格っぽい物にしようとしたというだけあり、その通りの本格ミステリの様相。では、本格ミステリとはなんぞや?と言われると定義が難しいですが、私の中での本格ミステリとは2度読める事です。1度目に素直にトリック・犯人に驚く、2度目に伏線に納得ながら読んでいく。2度目の通読時に伏線・描写に齟齬がない事、そしてどれだけ集中して読めるか、というのが私にとって名作ミステリの判断基準。やはり出来のいい作品は2度目も深く集中して読めます。実はこの作品3度読むと、もっと楽しい。2度目とは別の角度で物事を見た時、新たな感動が生まれます。 でも使用人(メイド?)の「幽霊」の証言は何?喋ってしまえば、物語が一気に解決しちゃうんですが…うーん。針路変更。この作品は本格テイストの他に、もう一つ焦点があると思う。動機です。森さんが仰っていた、「ミステリは動機が長々語られている作品が名作になる傾向がある」へのアンチテーゼの様な作品。最初の方で紅子が語る、殺人者を理解できる方が危険、という話は論理的には納得。『数寄にして模型』の正常と異常の話と同じく印象に残った考え方。
余談ですが、私はこのシリーズがVシリーズと命名される前に、勝手に「阿漕荘シリーズ」と名づけていました。レトロな感じで、ミステリとマッチして好きだったのですが、いつの間にかに大多数の方に流されていました。

黒猫の三角くろねこのさんかく   読了日:2000年12月15日