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いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)

いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)

柏原野々は天然石を売る店で働く25歳の独身女性。厳格な父の教育に嫌気がさし、成人を機に家を飛び出していた。その父も亡くなり、四十九日の法要を迎えようとしていたころ、生前の父と関係があったという女性から連絡が入る。世間一般にはありふれたエピソードかもしれないが、柏原家にとっては驚天動地の一大事。真偽を探るため、野々は父の足跡を辿るのだが…。森絵都が大人たちの世界を初めて描いた、心温まる長編小説。


森絵都が描く大人の世界、である。性描写=大人という訳ではないけれど、冒頭から性描写なのには、やっぱり本書の森絵都は一味違うんだな、とふんどしを締め直した(履いてないけど…)。内容も児童小説では取り扱わないだろうもので、父が隠していた不倫と淫らな一面、その原因を探るという展開で物語は始まる。読むまで、児童小説のように面白いだろうか、と心配だった。が、「結論から言えば」、森絵都らしい変な方向に力の抜けた、けれどグッとツボを押さえた作品だった。これは兄弟の話であり、親子の話であり、家族の話である。子供が大人になっても、疎遠になっても、死別してしまっても、その関係は変わることはないのだ。読み終わって私は、生きていてくれる間に両親の話を聞きたくなった。
一章の段階では物語の行き着く先が分からない。堅物であったはずの父の不倫相手の出現・対面、そして父が隠蔽してきた過去…。二章も中盤までは、まるでミステリやサスペンスのような雰囲気。閉鎖された島での暗い因習・過去の因縁との対峙の時が来る…。私も主人公ら柏原兄妹と同じように緊張で思わず息が詰まる。が、思わぬ「真実」により、物語はサスペンスからコメディへと急転回を見せる。この場面には思わず笑ってしまった。二人のおばさんの会話が実に良い。
私は、緊張感で膨らんだ風船が「ぷしゅー」と空気が抜けていくような後半が好き。全てが好転し過ぎるという感じもなくはないのだが、世界の見え方は心の持ちようで変わるものだ。全ページを読み終えて、フフッと心が満たされている感じがこの本の、森絵都の素晴らしい所だと思う。色々な人のちょっとした言動で、心にサラッと幸せな空気が流れ込んでくるのだ。それは主人公の野々が達郎に感じるような幸せの感触を、読者が味わえる瞬間だ。最初は野々の生き方や考え方に馴染めなかったが、ラストでは肯定的な感情の自分がいた。一番好きなのは頑なで不器用で感情的な妹・花。彼女の変化の場面は、そのいじらしさに心奪われた。

いつかパラソルの下でいつかパラソルのしたで   読了日:2006年07月06日