- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/12/26
- メディア: 文庫
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あるときは赤穂浪士のたどった道、またあるときは箱根越え、お伊勢参りに罪人引廻し、島流しルートも。暑さにも寒さにも原稿締切にも病にも負けず、ミヤベミユキはひたすら歩く歩く…。怪しき道づれたちと繰り広げる珍道中記を読むと、あ~ら不思議、あなたも江戸時代へタイムスリップ。さあ、この本をポケットに、お江戸の旅へと出発しよう! 楽しくてためになるおトクな一冊。
宮部さん初の、そして現時点('10年)でも恐らく唯一の企画物エッセイ。小説以外の書籍としては室井滋さんとの対談集『チチンプイプイ』がありますよー(宣伝)。
時代小説も書かれる宮部さんが、文明の利器に囲まれた現代では想像し難い江戸時代の人々の暮らしや風習を実地で学ぶという「小説新潮」の連載が7回分と、連載の元になった宮部さんの地元・深川巡りが2回収録されている一冊。
宮部さんが2,300年の時を越えて体験する慣習は、罪人の引廻し・島流し・関所破り、そして当時の信仰(善光寺参りとお伊勢参り)などなど。時代小説や時代劇を縁のない私でも言葉や制度として知っている事柄をテーマに据えているのが上手い。宮部さん以上に江戸時代への想像力が足りない私でも、宮部さんのお気楽な文章に導かれながら当時へ思いを馳せた。当たり前の事だが、現在の東京の都心は江戸の中心なのだと、時代の積層(?)を感じられた。また移動手段の発達は時間の短縮と、それによる自由時間を創出したのだと感じた。今なら参勤交代も日帰りで「将軍、元気っすか!?」と顔を出せばいいのだから。
更に儲け物だったのは、宮部さんのエッセイの上手さと、宮部さん自身の飾らない人柄を感じられた事。出版社の人々へのあだ名によるキャラクタ付けや掛け合いがなかなか面白かった。たった7回の連載だけれど、掲載誌の発売は半年に1回なので連載だけで約4年、更に単行本化、文庫化では約7年の月日が流れている。宮部さんは更に有名になり、出版社の面々はそれぞれ人生の節目があったようだ。こうして平成の世の人々の暮らしも体感する。
しかし残念なのは回を重ねるに従い、明らかに内容がぬるくなっている事。テレビ番組「電波少年」や「24時間テレビ」のように「やらせ」が一切許されない訳ではないが、本来の目的を忘れ観光ガイドと化した内容は看板に偽りあり。新幹線に乗って善光寺参り、大型フェリーと飛行機で八丈島に往復なんて、本来の目的「お徒歩」を忘却している。…と、ここで気付いた。宮部さんご本人の自覚の有無は不明だが、これは新潮社による宮部さんへの利益還元接待なのだ、と。連載時は90年代半ばでバブル崩壊後の大不況。しかし破格の取材費。これはやはり「売れっ子作家」への出版社の格付けなのだろう。他の作家ではこうはいくまい。「新潮」連載のラスト2編は完全に観光しており、作家だけでなく出版社の面々も慰安旅行を満喫している。美味しい物に舌鼓打って現代を堪能してるんじゃあないよ。エッセイに書かなきゃ、経費として認められないのだろうね…。
また、この連載をしていた90年代半ばは日本全体に暗い影を落とす出来事が続発した時代。特に後半は江戸時代と現代社会の対比がなされ、宮部さんの現代社会への警句が多く見られた。2,300年後の作家は平成時代をどう見るのか。
余談:本書で宮部さんの本名(名字)を初めて知りました。そして私も大好きなゲーム「タクティクスオウガ」が宮部さんを狂わせた事を改めて知り、笑ってしまった。