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バスジャック (集英社文庫)

バスジャック (集英社文庫)

今、「バスジャック」がブームである…。バスジャックが娯楽として認知されて、様式美を備えるようになった不条理な社会を描く表題作。回覧板で知らされた謎の設備「二階扉」を設置しようと奮闘する男を描く「二階扉をつけてください」、大切な存在との別れを抒情豊かに描く「送りの夏」など、著者の才能を証明する七つの物語。


主な感想は2つ。1つは三崎さんは真面目。もう1つは、これは世にも奇妙な物語だろうか?
収録の7編が7編ともそれぞれ独特な世界観を持つ作品集。共通点は現実と少し捩れた設定と、南都という少し不思議(SF)な都市(全編共通ではないかも)。そのSFな世界が登場人物と読者を幸福にしたり不幸にしたり、目頭を熱くさせたり肝を冷やしたりする。本当にバラエティ豊かな作品集なので、1編1編気持ちの整理して読まないと、作品本来の味わいを楽しめないので要注意。
本書の短編は2つの大きなグループに大別できるかな? グループを勝手に呼称するならば1つは1,4,6編目のマニュアル構築系、そしてもう1つは2,3,5,7編目のファンタジック情緒系。マニュアル構築系は言葉そのままの意味で、架空の専門用語や架空のルールなど綿密なマニュアルが用意されている短編。ファンタジック情緒系は少し不思議な世界が人の感情の機微に大きく作用している短編たち。上述の2つの感想はどちらの系統にも共通するものだけど、真面目さは構築系に、「世にも奇妙」なのは情緒系に強く表れていたと思う。
この2つのグループがほぼ交互に並んでいるので作風に幅を感じる一方、作風の違いに気持ちが追いつかなかった。構築系→情緒系と読むと、情緒系の短編にも絶対的なルールをつい求めてしまうし、情緒系→構築系と読み進めると、公務員的(?)マニュアル文章が苦痛に変わる。情緒系にもやや説明臭さを感じてしまうので、私としては三崎さんには構築系を極めて頂きたい。

  • 「二階扉をつけてください」…あらすじ参照。初読時はその着想や薄々感づかせる周到な結末に感心するものの、再読してみると疑問に思う部分も。旦那のアホさ加減(工事前に妻に電話しな。夫として!)とか町内会戦争とか、少し構造の欠陥が目立つ。あと最後のセリフはどうかと思う。三崎さんが実際に二階扉のある家を見て、そこから想像を膨らました話なのかな? で、早い話がDえもん。
  • 「しあわせな光」…良い話です。でも、どっかで読んだ事のあるような話です。
  • 「二人の記憶」…私の頭の中の消しゴム+鉛筆。男性も自分の足元の危うさに気づく点が○。誰もが同じ時間を過ごしながら個々に違う記憶を留める。
  • 「バスジャック」…表題作。あらすじ参照。一番好き。20ページ弱の短編でこんなに設定に凝るなんて素敵&贅沢過ぎる。半ば楽しむ乗客と空回る犯人グループの非日常のスリルの希求、は理解できる。安全を十分考慮したアトラクションと考えれば人質だって楽しい(?)。所謂「吊り橋効果」で、乗客との一体感や生の実感も生まれるだろう。オチは分かりやすいけど広義のミステリかな。
  • 「雨降る夜に」…妙齢の男女だから良い話っぽく思えるけれど、設定が違えばかなり怖い。主人公の君、君は一切の下心が無いと言い切れるかね。
  • 「動物園」…動物園の檻の中から一定範囲内の客に自分のイメージした動物を「観せる」職業の女性。今回の依頼主は小さな園だが…。まさしく『人間動物園』ですね。内容はプロフェッショナルの流儀。でもこの仕事、何だか集団催眠っぽくて怖い。報酬は高いのか安いのか。またも設定は凝っているが、この能力が動物園限定で必要かはやや疑問。介護関係での有用性の方が高いような気がする。
  • 「送りの夏」…ある日、突然の母の家出。父のメモを盗み見た麻美は母の家出先に単身向かうのだった…。変則的ジュブナイルですね。麻美と啓太のひと夏限定の関係が好き。でも私がこの世界で別れを体験したら気持ちの決着がより辛く長引く気がする。読者が作風を限定するのはご法度だが、情緒系作品は三崎さんではない他の作家さんの作品を読んでいる気分になるのはナゼだろう…?

バスジャック   読了日: