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輝く日の宮 (講談社文庫)

輝く日の宮 (講談社文庫)

女性国文学者・杉安佐子は『源氏物語』には「輝く日の宮」という巻があったと考えていた。水を扱う会社に勤める長良との恋に悩みながら、安佐子は幻の一帖の謎を追い、研究者としても成長していく。文芸批評や翻訳など丸谷文学のエッセンスが注ぎ込まれ、章ごとに変わる文章のスタイルでも話題を呼んだ、傑作長編小説。朝日賞・泉鏡花賞受賞作。


私如きが読むには少なくとも20年は早いかもしれない。作中に何度か出る「小説と読者の関係」という点では、私とこの小説では身分・教養が大分違う。もちろん、小説には読者の数だけ解釈の自由が許されている。そして…
……痺れた。私が分かる範囲はこの小説のごく一部だけかもしれないが壮大で巧妙な仕掛け、その文章の美しさ、「小説」が持つ力に陶酔しました。敬遠せずに読了した自分を褒めたい。もちろん小説と作者に、いと感謝したい。
物語は「行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず」という印象。一つの流れを捉えようとすると、もう既に別の流れになっているような、流動的で、時の移ろいを感じさせる淀みのない巧みな構成。冒頭の幼き日の安佐子が書いた小説から、なぜか源氏物語より先に出てくる『奥の細道』論、そして200ページにしてやっと登場する『源氏物語』。途中、この小説の本流が分からなくなったり、『源氏』までの道のりが長いように思われるかもしれない。しかし、この小説にはこの全てが必要で、最後に全ての流れが集まって、大河が現れる壮大な仕掛けが仕掛けられている。千年の時を超えて流れる大河の姿は雄大で優美なり。
日本の文学・小説という川の流れを遡っているようで、この小説は文学の最先端でもある(そして源流でもある)。一読すると安佐子という女性の物語だ。彼女の生き方や恋愛(特に後半、目が離せない)を追うだけでも楽しい。生き方という点では彼女が文学だけに生きるのではなく、バツイチであり、恋愛に溺れる様もいとおかし。しかし前述したように、この小説は一つの流れを追っても追い切れない。川は絶えず流れるからこそ美しく、「われても末に あわむとぞ思う」というような人との出逢い・別れ、そして再会を生む。ふと川に投げられた石の波紋が、後になり思わぬ場面で波を起こすのは推理小説の伏線のようだった。
最初こそ文体に戸惑ったが、中盤から全く気にならなくなり、むしろ雅やかな文章を堪能した。現代的な下手な文章よりもむしろ、心に染み入る文字の音。
確かに本書は『源氏物語』を始めとする古典の知識があった方が、より深い理解・楽しみが生まれるのだろう、とは思う。けれど私のように知識がなくても、本書だけで充分に楽しめるよう構成されている安心設計。是非、ご一読を。
物語の一部ですが、安佐子と父・玄太郎の会話が好きだった。父親として学者として父を尊敬する娘と、娘の女として、また文学者としての成長を喜ぶ父。この様子が良かった。そして、これもまた投げられた大河の一石だったのです…。

輝く日の宮かがやくひのみや   読了日:2007年03月12日