《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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(P[ま]1-2)雨にもまけず粗茶一服<上> (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ま]1-2)雨にもまけず粗茶一服<上> (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ま]1-3)雨にもまけず粗茶一服<下> (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ま]1-3)雨にもまけず粗茶一服<下> (ポプラ文庫ピュアフル)

友衛遊馬、18歳。弓道、剣道、茶道を伝える武家茶道坂東巴流の嫡男でありながら、「これからは自分らしく生きることにしたんだ。黒々した髪七三に分けてあんこ喰っててもしょうがないだろ」と捨て台詞を残して出奔。向かった先は、大嫌いなはずの茶道の本場、京都だった。個性豊かな茶人たちにやりこめられつつ成長する主人公を描く、青春エンターテイメント前編。

京都に出奔した弱小武家茶道「坂東巴流」家元Jr.の友衛遊馬。お茶が嫌いなはずだったのに、宗家巴流の先生・志乃の家に寄宿し、お茶菓子作りが趣味の坊主・不穏や公家装束を着こなす高校教師・今出川幸麿など、怪しげな茶人たちとの交流は増すばかり。そうこうするうち、宗家巴流の後継問題に、あれよあれよと巻き込まれ…。大好評青春娯楽小説、感涙の大団円へ。


あらすじの通り『黒々とした髪を七三に分けて』お茶を点(た)てるだけの人生が嫌だった主人公・友衛遊馬(18)。彼は前髪を青く染めることによって人生の進路を変えようとした。だが、それがかえって父親の逆鱗に触れ、勘当同然で家出をすることになる。しかし家出を決意しながらも夕食の寿司を食べ損ねたことを残念に思う軟弱者の遊馬。考えなしに家を出た遊馬の人生はどこへ行くのか…?


面白かった!何といっても主人公・遊馬を始めとした登場人物たちがとても良い。物語の舞台の京都も良い。かわいい表紙も良い。タイトルも良い。タイトルの意味は最後まで分からなかったが、そこがまた良い。全て良かった。
それもこれも遊馬のお蔭である。彼は良い意味でも悪い意味でも「坊(ぼん)」なのである。悪い意味では世間知らずだし、ワガママの自分勝手だし、果ては無一文でも他人の家に居続ける。しかし、それを救うのは良い意味での坊ちゃん的性質で、箸の使い方一つ、佇まい一つでも彼は人の目を惹く。家元の家に生まれた者の宿命から彼は逃避したが、その宿命は彼の全てでもあった。三つ子の魂は百まで続き、腐っても鯛は鯛である。この物語の面白さの一要素として、遊馬自身は自分が鯛であることに無自覚でいる所がある。しかし彼のコンプレックスは、他者から見ると大きなアドバンテージでもある。品(ひん)や作法というものは、急ごしらえに身に付くものではない。その時点で既に「身に付いているもの」なのだ。個人的嗜好から言えば、私は箸の使い方の綺麗な人や文字の綺麗な人に憧れる。それはその人がそういう「生き方」をしてきたと思うからだ。遊馬は無自覚にそういう人なのだ。大きな宗家や小さな巨人の弟・行馬と比べる描写が多いから坂東巴流の遊馬は弱小・ヒヨッコに見えるけれど、やっぱり坊(ぼん)なのである。
そういう無自覚を無自覚のまま周囲の人物や読者に気づかせ、遊馬には驕らせずに進むストーリーはとても心地良いし面白い。遊馬は本質的に凛々しい空気を持った人なのだろう。外面と内面のギャップが遊馬をより魅力的に見せる。そして最後の文章には笑った。バカバカしくて、そして感動して涙が出た。全ては振り出しに戻っているのだ。きっと遊馬は良い男になるだろう。
会話や行動を表す文章が独特だと思った。普通は会話文で表される箇所を地の文で表していたりする。初めはちょっと混乱はするが、それが悪い訳ではなくて、むしろ説明臭くなる会話をスッキリとさせている。行動を表す部分も同じで、登場人物(特に遊馬)の行動を敢えて書かずにいる部分が多かったように思う。遊馬が祖父をどんだけ大切に想っているかが分かる箇所には感動した。全てを書かない事で、全てが伝わるような文章だった。また、舞台となった京都弁も味わい深いものがある。「イケズ」は日常会話で使ってみたい言葉だ。

雨にもまけず粗茶一服あめにもまけずそちゃいっぷく   読了日:2006年05月01日