《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ブラック・エンジェル (創元推理文庫)

ブラック・エンジェル (創元推理文庫)

一枚のCDから突然黒い天使が現れた!? カルト的な人気を誇るアメリカのロックバンド"テリブル・スタンダード"のファーストアルバム、その中ほどに収録されているインストゥルメンタルの「ブラック・エンジェル」が流れた時、いきなりそいつが現れて、マイナーロック研究会の仲間を殺してしまったのだ! ミステリとファンタジーと青春小説が渾然一体となった著者の代表長編。


※ この作品は叙述トリックを一切使用していません。
と、最初のページに書いておいてくれないだろうか。でないと、私のように「脳の認識と錯誤」を用いた、最近ミステリ界で流行しているトリックだと思い込んで読んでしまう人がいると思うのだ。これから読む皆さまは、この事に注意されたし。この作品で起こる事の「全て」、「素直に」受け止めなければならないという事を…。
本書はサークルの仲間が死んでしまう事になった「動機」「理由」を探すミステリ。フーダニットでもハウダニットでもない。ホワイダニット、なぜそれが起こったのか、が問題になる。私は勝手な先入観から勘違いしてしまったが、看板に偽りはない。本書は間違いなく青春+ミステリ+ファンタジー小説である。そのブレンドは絶妙で、何とも言えない若者特有の甘さと苦さを醸し出す事に成功している。
何となく友達になってサークルを作った6人の男女が、「彼女が死んじゃった」事で彼女という存在を、そしてもう一度、自分を見つめ直す事になる。日常過ぎて考えもしなかった関係性を、非日常の中で立ち止まって考える。ここが青春っぽい。自分の中の彼女の姿、彼女の中の自分の姿、周囲の中の彼女の姿、周囲の中の彼女と自分の関係。鏡と鏡を合わせれば自分の後姿も見られるのだ。この事をミステリの謎と関連させてテーマとして浮かび上がらせる手法がお見事。
輝かしい実績や社会的地位といった自分の価値を社会的・客観的に高めてくれる土台がない若い彼らは、今はまだ「背伸び」をする事でしか自分を大きく見せる事が出来ない。「背伸び」は彼らが本当に大きくなる、その日まで続く…。
怪しい雰囲気を撒き散らすサザーランドが良い味を出している。が、主人公を真相に近づけさせるためとはいえ彼の推理力・想像力は行き過ぎだとも思う。彼が年長者だから分かったのかもしれないが。また最後の展開には驚かされたが、あれは主人公の推理を最高に裏付ける出来事だと思えば納得がいくかな…?

ブラック・エンジェル   読了日:2006年11月30日