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熊の場所 (講談社文庫)

熊の場所 (講談社文庫)

猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者はゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。


読了して「ピコーン!」と連想したのは、「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである」という大崎善生さん『パイロットフィッシュ』冒頭の文章。まー君にしろバット男にしろ、死んでしまった恋人にしろ、本人が目の前から消えたとしても記憶の中では生き続けている。そして記憶の中の人の姿は、自分がその人とどう関わったかで違う。全速力で立ち向かったのか、社会のシステムの一部として割り切ったのか、割り切れたのか。
そして1,2作目の短編に関してもう一つ引用すると、中谷美紀さん「砂の果実」の「あの頃の僕らが嘲笑って軽蔑した 恥ずかしい大人にあの時なったんだね」という歌詞。過去からの復讐はいつも突然で、内側から確実に自分を痛めつける。

  • 熊の場所」…蹴躓いた「まー君」のランドセルの中から出てきたのは猫の尻尾。一度は恐怖のあまり「まー君」から逃げ出すも、恐怖を克服するためには彼と立ち向かうしかなかった…。死の予感に直面した主人公の感覚が研がれる様子、恐怖と対峙する緊張感の描写が上手い。父のエピソード、まー君の行動など話の構成も巧み。私の読む順番のせいか最近、暗黒ジュブナイルが多いなぁ。
  • 「バット男」…老成(≒無関心)の僕が見てきた高校生夫婦の愛情と、かつて小心者で臆病な男が振り回していた一本のバットの行方…。こちらは「まー君」サイドの人物が主人公。一瞬、この小説の主人公=東京に転居したまー君というアイデアがピコーン!と閃いたが、名前が違う事に気づいて、しょぼーん↓ かなり明るい閃きだったのに…。『阿修羅ガール』にも登場した掲示板「天の声」が登場。
  • 「ピコーン!」…二人で将来や未来、人生を切り拓く事を誓ったはずの恋人の命は、町中が停電した夜に消えてしまった。死体にいたずらをされて…。暴力・性・電波の3拍子で舞城さんらしい(?)作品。(ネタバレ:反転→)逮捕・服役はしても関係者に向き合って謝罪出来ない犯人は現実にもいそうで怖い。(←) お気に入りの台詞は「買った本はちゃんと読めっつうの馬鹿!」。過去からの復讐、自分の内側が痛い…。

熊の場所くまのばしょ   読了日:2007年03月24日