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正義のミカタ I’m a loser (集英社文庫)

正義のミカタ I’m a loser (集英社文庫)

僕、蓮見亮太18歳。高校時代まで筋金入りのいじめられっ子。一念発起して大学を受験し、やっと通称スカ大に合格。晴れてキャンパスライフを満喫できるはずが、いじめの主犯まで入学していた。ひょんなことから「正義の味方研究部」に入部。僕は、元いじめられっ子のプライドに賭けて、事件に関わっていく。かっこ悪くたっていい、自分らしく生きたい。そう願う、すべての人に贈る傑作青春小説。


これまでの本多孝好作品の主人公とは初めて出身(在籍)大学が違うかもしれない、様々な点で決してスマートではない新大学生・蓮見亮太くんが主人公。亮太は独学で必死に勉強して念願の大学生になった。3流大学と揶揄されようが大学生活に心は弾む。そんな彼は外見も決して端正ではない模様。新生した気持ちで入った大学で亮太は様々な価値観に出会い、そして悩む…。
後に不満を述べるので先に褒めるべき点を。一つは亮太とトモイチの友情。亮太がいじめでの一方的な暴力でなく、対等な拳を交し合った初めての、そしてイチ番のトモ達。不器用だけど真っ直ぐな友情は、亮太でなくとも胸が熱くなる。そして二つ目はテンポ。幾つか胸が苦しくなるような場面もあるけれど飽きさせない絶妙な文章と展開。なのに読了すると不満が残るのはナゼ…?
何と言っても結末が遺憾。あれはいかん。一人の登場人物の扱い方が酷いのだ。そもそも正義と悪は相対的なものだから、価値観の違いを明確に示さないと彼だけの正義は示しにくい。だからこその、中盤のあの人のキャラクタだろうし、結末のあの人の変貌は必要なのだろうけれど…。唐突過ぎて唖然としてしまった。
亮太が出した結論は理解できる。例えば広くは「世界の警察」を自負する国が正義の下に行った武力行使はその正当性を失っている。そしてそこで失われた人命は戻らない。正義は絶対ではない。それは分かる。だけど、だけどね、あの人を犠牲にして亮太の正しさを描くのも間違っているように思えるのだ。
スマートではない亮太を主人公に据えたからではないと思うが、どうも小説としてもスマートではない。社会における「弱者」の姿を描いたのだろうけれど、物語のあちこちで語りすぎた。そのせいで主題がぼやけてしまった。特に中盤は亮太の抱える問題が、いじめっ子(加害者)⇔いじめられっ子(被害者)のという構図の中での正義から、一部の経済的な富裕層⇔それ以外という構図に掏り替わっている。それでいて結末は正義の問題に戻るから、ちぐはぐな印象が拭えない。
読書中、ずっと連想したのは金城一紀さんのゾンビーズシリーズの3作目『SPEED』。ワンツーパンチの練習や、この結末でいいのだろうかという疑問が残る所まで似ている。価値観は絶対ではない、そういう問題にワンツーで踏み込んだからこそこういう読後感になるのだろう。それも分かるのだが…。

正義のミカタせいぎのミカタ   読了日:2007年09月07日