真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)
- 作者: 本多孝好
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/06/28
- メディア: 文庫
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「砂漠で毛布を売らないか」IT企業の社長・野毛さんに誘われるまま会社を移った僕は、バイトと二人きりの職場で新しく働き始める。仕事は、客入りの悪い飲食店を生まれ変わらせること。単なる偶然か実力か、僕の仕事はすぐに軌道に乗り、業界では隠れた有名人となる。ある日、本当に久しぶりに尾崎さんから電話が入った。もう二度と会うまいと決めていたのに。再会した尾崎さんは、「頼みがあるんだ」と、信じられない話を切りだした。
『MOMENT』の感想に、いつも主人公の設定が同じだと書きましたが、今回もそう。物語の中で、主人公が自分は完全な球体に収まっていて自分を多く語れないといっていたけれど、その特徴は他の作品の主人公も同じだろう。そして主人公のシニカルさがあだち充的だとも書きました。今回は、その持論を例にしてみたいと思います。今回と他の主人公たちとの違いは「タッチ」の上杉達也と「みゆき」や「H2」のアイツぐらいの違いしかありません。顔がみんな同じに見えます。
さらに続けて、同じく双子の話の「タッチ」を引き合いに出せば、南ちゃんはタッちゃんが好きだった。だからこそ、カッちゃんの代わりにユニフォームを着てマウンドに上がったタッちゃんを、ただ一人だけ一瞬でタッちゃんだと分かるわけですよ。さて、なんで、この主人公たちは分からないのだろう…? まぁ、それを言ったら物語の面白みは無いんですけどね。 テーマとしては分かるんです。特殊な形ですが、間違いなく愛すること、どうやって愛は確かめられるのか、どこに存在するのか、が問われています。とても上手い設定です。ただ興味深い話なのに、特殊な形をしているばっかりに消化できなくて、共感が置いてけぼりになってしまったのは残念。色々と回りくどすぎるんですよ。「僕」と尾崎と彼女の三人でプールに行って、彼女をプールに突き落とせばいいんですよ(笑)!
『side-A』を読んでいる最中に、本多さんは頭のいい主人公を使って起業小説・経済小説でも書けばいいのに、と思っていたら、そうなった。次回の小説は最初から最後までその方向でもいい。そうなればいいのに…。気になったのはアルバイトの「〜っす」くん。いい味出しているけれど、わざとらしいまでの「〜っす」に辟易。本当にずっとあんな喋り方をする人を、少なくとも私は見たことがない。
本多さんの本のイメージと主人公が立て直すバーや飲食店のイメージが被る。お洒落でいい雰囲気で、心をくすぐるんだけど、何の感情も湧き上がってこない。だから特別な店にはならない。それが残念。私は本多さんの「喪失」にはミステリを期待してるんです。ホラーやファンタジーじゃないんですよね。
結局、水穂さんのエピソードが一番良かった。双子は、いらなかったかな…。