- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/05/25
- メディア: 文庫
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1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。
長い、とにかく長い一冊。何日かかるのか不安でしたが、なんとか読了です。これは面白かった。ミステリはミステリだけれども、最後にあっと驚くような結末が用意されてるわけでもない。ただ淡々と2人の男女がどのような人生を辿っていったかという話である。その中で起こる数々の事件。しかしこの事件はどのようにして起こったのかは、次の章で明らかになっている。問題は起こる事件ではない。どうして男女2人の間には事件が起こるのか、男が事件を引き起こしていることは作中で暗示されていくが、なぜ彼らはそこまでどこまでも二人なのか?ということが大事な部分である。少しずつ経過する年月、その年月の中でどんな生活をしてきたのかを圧倒的なディティールで描いているのが、今作品の最大の魅力であろう。
ラストは読み応えのある文章で、これまでの彼らの人生を追ってきた者にしか分からない壮絶さを秘めている。暗い道を静かに二人きりで20年余り歩いてきた男女の悲しい物語が確かにある。なんと壮大な物語を読んだのだろう、という漠然とした感覚があるだけで、実感は少し間を置いて私に鈍い衝撃を与えた、そんな作品でした。