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密室に向かって撃て! (光文社文庫)

密室に向かって撃て! (光文社文庫)

烏賊川市警の失態で持ち逃げされた拳銃が、次々と事件を引き起こす。ホームレス射殺事件、そして名門・十乗寺家の屋敷では、娘・さくらの花婿候補の一人が銃弾に倒れたのだ。花婿候補三人の調査を行っていた《名探偵》鵜飼は、弟子の流平とともに、密室殺人の謎に挑む。ふんだんのギャグに織り込まれた周到な伏線。「お笑い本格ミステリー」の最高峰。


シリーズ2作目。探偵・警察の捜査側の楽しいキャラクタはもう既にお馴染みと言ってもいいぐらいなので、彼らの頓珍漢な会話を楽しみつつ気軽に読めた。
烏賊川市の《とある警官》が一丁の密造拳銃を紛失してしまった事から始まるドタバタとんでも系お笑いミステリ。運悪く拳銃の拾得者には殺したい人間がいたから大変。《とある警官》の予想は的中し、市内で射殺事件が起こってしまう…。全てが終結した後に《とある警官》の反省の弁が述べられるが、銃の入手経過がマスコミで報道されたりしたら確実に厳しい処分が待ってますよね。さよなら砂川、…じゃなかった《とある警官》。ちなみにミステリではありませんが一般市民が偶然、拳銃を拾ってしまうという展開は竹内真さんの『粗忽拳銃』に似ている。
書名に「密室」とあるものの本書の殺人は、登場人物たちの視線によって密室と化した閉鎖空間で行われる。衆人環視の状況で犯人だけが忽然と姿を消す。なので本書のメインとなる謎は犯人探しかと思っていたが、中盤以降はフーダニットからハウダニットに照準が移る。いくら推理を重ねて計算しても過不足が出てしまう8発の銃弾の謎。…なのだけど、ちょっと今回は謎の魅力に欠ける。まず事件の目撃者が多過ぎて、犯人候補がいないのが最大の欠点。誰にも犯行が出来ない不可能状況を演出したかったのかもしれないが、登場人物の大半の目撃者なので犯人候補から引き算されると犯人は自ずと…。犯人当てがメインではないとはいえ、犯人の目星がつくと犯行もおおよそ見当がついてしまう。
工夫されていた発砲のタイミングも(伏線はあるものの)、射殺方法も(これも事例を出しているが)現実的には色々と無理がありそう。この方法だと絶対、科学捜査で証拠が発見されると思うのだけど。実家が船宿の監察医が無能なのだろうか…。初読時は気にならなかったが、再読すると色々気になる点が出てきます。
本シリーズの好きな点は、登場人物の誰もが真相に肉薄出来る可能性を秘めている点である。《名探偵》は鵜飼なのだが、その鵜飼を際立たせる為にその他の登場人物から思考能力を奪うような事はされていないのが好ましい。弟子(たち)や警官2人組も皆が思考し、独自アイデアを創出している。それによってバリエーション豊かな推理が読めるし、推理を重ねる事によって一歩ずつ真相に近づく興奮も味わえる。逆に本書で最も好ましくないのは拳銃による最初の被害者の扱い。いくら「探偵組」を事件に介入させる目的があるとは言え、前作の登場人物を安易に犠牲にしているように取れた。ユーモア小説と殺人ミステリの両立は難しいが、どうも軽妙さと軽薄さが混同されているように思える。惜しい。

密室に向かって撃て!みっしつにむかってうて   読了日:2008年08月26日