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しゃばけ しゃばけシリーズ 1 (新潮文庫)

しゃばけ しゃばけシリーズ 1 (新潮文庫)

江戸有数の薬種問屋の一粒種・一太郎は、めっぽう体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃。以来、猟奇的殺人事件が続き、一太郎は家族同様の妖怪と解決に乗り出すことに。若だんなの周囲は、なぜか犬神、白沢、鳴家など妖怪だらけなのだ。その矢先、犯人の刃が一太郎を襲う…。愉快で不思議な大江戸人情推理帖。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。


甘い甘い口当たりの作品。まず主人公の一太郎が甘い。一太郎は多くの探偵の中でも一番の「箱入り息子」だろう。日本一甘い両親から比喩として糖衣に包まれて育てられ、比喩ではなく17歳(数え)で、お菓子を与えられている。そして彼は同時に「病弱探偵」でもある。外出もままならないから安楽椅子型の探偵かと思いきや、折を見ては一人で外に出ようと試みては、咳き込んで、倒れる(笑)
一太郎は身体は弱っちいし、金持ちで世間知らずな面もある。こういう人は他者から疎まれそうなものだが、彼の人柄は周囲からも読者からも愛される要素を持っている。というのも彼からは人から好まれるような「甘い匂い」を漂ってくるのだから…。しかも、それはただ単に甘いだけではない。甘い描写でいくらでもデコレートできる外見だけでなく、内面の彼本来の品質の良さまでもしっかりと引き出しているのだ。その粋な甘さの表現に素材の良さ、職人の腕を感じた。幼い頃から病に臥せっていたから思考が同世代の人よりも老成していて、育ちが良いから品が自然に身に付いている。その上、当たり前の事を当たり前と思わず自分で考える力が備わっている。その境遇ゆえに生きている事や、その生を支える自分の周囲への感謝を忘れない。限られた狭い世界ながら誠実に対応する。それは人間であっても妖(あやかし)であっても同じである。 その周囲の者では一癖も二癖もある妖たちはもちろん良かったが、人間の中では栄吉が良かった。彼の存在が一太郎を援け、彼の歯痒さが物語全体を引き締めている。
ミステリとしても甘い。広義のミステリなので読者の推理の余地は少ない。けれど作者の手腕、確かなプロットによって読者は事件に夢中になるはず。そして甘い口当たりの割には、人は次々と殺され、最後にはとんでもない大事になる事に驚かされるだろう。ミステリとしては★4つの評価は高すぎるかもしれないが私はこの甘い世界が大好きなのだ。江戸は妖しくも愉快な魅力的な舞台であった。
現在(07年07月)では続編シリーズが何作も出ている。けれど本書で一太郎の周囲の話をかなりしてしまったので今後はどうしても濃い話にはなら無いような気がする…。果たしてどうなるのか、好きになったこの味に注目したい。
余談:妖怪と薬屋というと、「あのシリーズ」を連想した。どちらも広義のミステリ。

しゃばけ   読了日:2007年07月27日