- 作者: 貫井徳郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1999/03/17
- メディア: 文庫
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連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。
残念ながら途中でネタが分かってしまったので6点。怪しいぞ、と思ったらそうだった。発売から時間が経過しながらも爆発的に売れるミステリって、たいていトリックが似ていて、初心者歓迎という雰囲気がある。
しかし実はトリックが分かってからの方が、面白く、そして切なかった。「慟哭」というタイトルに胸を痛めながら読んだ。ラストの一言はミステリというより警察小説であるこの本の現実の悲しみを表していて、またチクリ。謎の解明されたカタルシスによって、死者が戻るわけではない、と当たり前の事を改めて気付かされた。私的には、作中の新興宗教にとても興味を引かれた。これは法月綸太郎さんの『誰彼(たそがれ)』の時の新興宗教描写の時も思った。現実に新興宗教に興味があるわけではなく、作中のフィクションとして新興宗教をでっち上げるのが面白い。いかにも!みたいな教義と教祖。この二つを描くのは作者の腕だと思う。警察小説としても面白い。よく言われるキャリアと所轄の問題を内在させ、しかも警察という組織の固定のポストを上手く使っている。
本書はかなり売れたらしい。しかし失礼かもしれないが、この本が売れたのは帯に推薦文を書かれた「北村薫」さんの力が大きいのではないかと思っている。なぜなら、私がその一人だから…。他の人の推薦文より100倍は惹かれるし、信じられる言葉。北村さんが言うなら絶対面白いんだ!と思わせられる。そういう信頼度が北村さんにはあるのだ。悔しいけど良い人選。