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裏庭 (新潮文庫)

裏庭 (新潮文庫)

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた。教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。


1995年の児童文学ファンタジー大賞作。私が思っていたよりも、ずっとずっと新しい作品。読書中はこの本がずっと以前から存在しているような気がしていた。王道のファンタジー路線だからか、それとも内容が普遍的な死と不変的な家族の話だからだろうか。新しいながらも既に古典の雰囲気と風格を備えている。
本書を物凄く簡単に要約すると、主人公の照美は無人の洋館の鏡から異世界である「裏庭」に入り込んでしまい、そこで照美はテルミィとして自分探しの旅に出る。また現実世界では、残された照美の家族や洋館の関係者たちが人と人の繋がりを回復し、過去の体験を乗り越えていく、という話である。
思っていた以上に難解な本(特に後半)。物語が多重構造で、寓意の多い作品だという事は分かる。けれど読解力不足から、テルミィ(照美)が「裏庭」の世界で出会う全ての人(?)たち、全ての出来事にどんな隠された意味があるのか、その一部分しか読み取れなかった。もっともっと「裏庭」の奥行きは広かったはずだ、と世界を見渡せなかった事に悔いが残った。現実世界の人間関係・家族が再生していく様子は分かりやすいのに、結局、肝心の照美の「裏庭」世界は寓意に寓意を重ね過ぎていて真意が掴めなかった。私は「裏庭」に入る資格がないのかも…。
読書体験よりもゲーム体験の方が早かった私には「裏庭」世界が丸っきりRPG世界に思えた。レベルの低い内は先導してくれる頼もしい仲間がいて、人に会い、たらい回しにされるイベントがあって、物語が核心に触れるのは、この世界を一通り回った後で、というお約束がしっかり守られていた。
しかしゲームとは違い、読者はテルミィの行動を自由選択できる訳ではない。なのでテルミィの行動全てが自動イベント(プレイヤーが全く介入できない状態)の連続に思えてしまった。特に後半の窮地と起死回生の繰り返しには、またかという気持ちが強かった。テルミィに共感や感情移入できずにゲームは先へ進んだ。
私は人の歴史や繋がり、親子の愛憎がきっちりと示されていた現実世界の話の方が断然好き。生きる事の奥行きを感じ、ハッとさせられた言葉が幾つもあった。

裏庭うらにわ   読了日:2009年10月28日