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天使が開けた密室 (創元推理文庫)

天使が開けた密室 (創元推理文庫)

行方不明の父親を捜すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。そのバイト先で高額の借金を負うハメになり困惑していたところ、「寝ているだけで一晩五千円」というバイトが舞い込んだ。喜び勇んで引き受けたら殺人事件に巻き込まれて…。怖がりだけど、一途で健気な美波が奮闘する、ライトな本格ミステリ。期待のシリーズ第一弾! 短編「たった、二十九分の誘拐」も収録。


300ページの長編と40ページ余の短編の2編から成る作品。私が読んだのは創元推理文庫版だが、元々はライトノベルのレーベルから出版された作品らしい。ライトノベルに関して明るくないけれど、読んでの感想はライトノベルと言うよりも少女漫画に近いのではと思った。本書、並びに本シリーズ(既刊は3冊)は元気いっぱいだけど少々ドジっ子の女子高生の主人公・美波が身に降りかかってくる様々なトラブルを乗り越える話。父親が行方不明の他は極々平凡な美波。彼女の友達はスポーツ万能の直海と超お嬢様の「かのこ」、というやや類型的な顔触れ(この辺も少女漫画的だ)。更には『猛烈な人見知り症』の美波なのに、なぜか年上の男性にだけは勝気に振る舞ってしまう。お隣さんの「美形」の男子大学生とは顔をあわせれば口喧嘩をするし、アルバイト先の男性にも意地悪ばかりされる。年上の男性に意地を張ったり翻弄されたりトキメいたりする展開は少女漫画そのもの。でも逆の視点で考えてみれば、いい年こいた男子大学生が女子高生にちょっかいを出す方が恥ずかしかったりすると思うのは私が歳を取ったからか…。
ミステリとしてはシンプルで堅実な作品。やはりライトノベルレーベル発だからか、事件は初心者向けといった内容で、ある程度ミステリを読みこなしてきた人は類似作品・トリックを想起して真相を看破してしまうかもしれない。けれども奇を衒わない作者の生真面目な性格は伝わった。しかし何と言っても本書で一番驚かされたのは、300ページの作品で、事件の発生が200ページ目だったこと! 続く50ページで事件の捜査と推理、残りの50ページで真相披露。前半に動機や伏線を練りこんであるといっても、歪んだ構造には違いない。事件内容・真相がシンプルな為、推理の数にも限界があったのだろうと思われるが、これが作者の苦渋の策なのか、キャラクタ重視のライトノベルの性格によるものなのか私には判別が付かない。
美波をトラブル(事件)に巻き込ませるためではあるのだが、周囲の人間が皆、彼女に厳し過ぎて胸が痛くなった。大人たちの彼女に対する理不尽な態度に怒りも感じた。それもこれも事件の為だとは分かるのだが…。

  • 天使が開けた密室」…病院内の霊安室の中で殺人事件が発生。事件発生当時、霊安室はいわば「衆人環視の密室」だったのだが犯人はどうやって中に…!? 事件の捜査状況や物証などは友人の直海の父(警部)に、関係者へのフリーパスは友人・かのこの人脈を、と探偵が十分な情報を得る為の用意は周到にされている。そして本書ではラストにも小さなどんでん返しが用意されている。
  • 「たった、二十九分の誘拐」…人から借りた携帯電話が誘拐犯と自分を繋げる。犯人は次々に要求を告げるが…。本編も美波が事件に巻き込まれるまでの過程がやや強引だが、真相は面白い。長編に比べると格段に無駄が無い(笑)

天使が開けた密室てんしがあけたみっしつ   読了日:2008年12月19日