《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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連鎖 (講談社文庫)

連鎖 (講談社文庫)

チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で輸入されていた。厚生省の元食品衛生監視員として、汚染食品の横流しの真相究明に乗りだした羽川にやがて死の脅迫が…。重量感にあふれた、意外性豊かな、第三十七回江戸川乱歩賞受賞のハードボイルド・ミステリー。


チェルノブイリ原発事故から4年、放射能汚染の副次的被害を受けている食品業界を舞台に、消費者からは見えない業界の、流通の闇を内部から照らして明らかにする男たちの葛藤を描いた第37回江戸川乱歩賞受賞作。「社会派のテーマ+業界の内部事情+ミステリ」という以後の乱歩賞のお手本のような作品。後半、個々の思惑・陰謀が複雑に絡み合いすぎて、問題がやや分かりにくい箇所もあったが、市販の食品を口にする者として興味を引き立てられる導入部から最後まで、展開が滑らかに進んで、飽きることなく楽しんで読めた。
ただ、一方で目につく箇所もいくつか。怪我したはずの人物がアニメの登場人物のように数日で軽々と動けたり、何の警戒もなくホイホイと動いたり(これはハードボイルドにお決まりの大ピンチへの作意だろうが)、序盤から黒幕のキャラクタを立て過ぎて目星が付いてしまったり…、と色々と粗雑な箇所もある。また肝心の黒幕の、動機に対しての行動が噛み合っていないように思えた。犯人側の状況だけが常に有利なのも気になる所。二転三転するラストは「おぉ!」っと感心したが、説得力という点では、マイナス二点・三点と減点していった(洒落…?)。
狭義のミステリとしては、衆人環視の中、どうやって目標の人物を思い通りに行動させ死に至らせるか、という謎がある。現実性と証拠が多く残ってしまう問題はあるが、一つの謎として最後まで引っ張れるだけの求心力があった。
どんな法律でも解釈による抜け穴があるのだと改めて思い知らされた。それを経済活動に利用する事は、良くいえば企業努力でもあるが、悪くいえば企業詐欺でもある。私たちは、知らずにその詐欺に引っ掛かり、自分の命すら奪われてしまう危険もあるのだ。それは企業による大量・無差別殺人である。
余談としては、コンピュータの性能が低かったり、移動電話の最高峰が携帯電話ではなく自動車電話だったの事に、91年の出版から15年という歳月を感じた。
真保裕一という作家が凄いのは、この後にも大作を書き続けている所である。小説は1作だけなら誰にでも書けるが、2作目からが難しいらしい。現在、真保裕一は、コンスタントに話題作を発表する作家になっている。

連鎖れんさ   読了日:2006年09月02日