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賢者はベンチで思索する (文春文庫)

賢者はベンチで思索する (文春文庫)

近所のファミレスでアルバイトをしている就職浪人中の久里子。常連にはいつも同じ席に座ってコーヒー一杯で何時間も粘る不思議な老人・国枝がいる。そんなある日、公園で毒物混入の犬の餌がまかれるという事件が発生、久里子の愛犬・アンも誤ってその餌を食べてしまう。アンは一命をとりとめたが、犯人はいったい誰なのか? 意外な方法で事件の解決に乗り出したのは、あの国枝老人だった……。


ちょっとミステリとしては物足りない。各話のミスリードが分かり易いし、真相も論理で暴いているとは言い難い。けれど揺れ動く久里子の気持ちが丁寧に描かれているので、物語として面白く読めた。国枝老人のセリフの一つ一つに感銘を受けたり、久里子の恋の不器用なアクションに共感と応援を感じたり、久里子の家庭内の変容の描写に一喜一憂したり、とても読み所の多い作品である。この作品はジャンルで言うならば「日常の謎」と呼ばれるものであろう。ただ、この作品はミステリを超えても「日常」である所がすごい。近所のファミレスにも久里子みたいな子がいそうである。久里子の家庭もアンもトモも存在するかもしれない。国枝老人は、なかなかいないだろうけれど。公園に行ってみようかな…?

  • 「ファミレスの老人は公園で賢者になる」…紆余曲折を経て犬を飼い始めた久里子の家。しかし近所では犬が殺される事件が続発していた…。久里子と国枝老人の初対面と初事件。事件そのものには憤りしか湧いてこない。しかし久里子の悩みと家庭の事情を描かれているので読み応えがある。ミスリーディングにはすぐに気づくのだが、そのミスが温かいラストに導いてくれる。久里子は長女だ。
  • 「ありがたくない神様」…ファミレス「ロンド」内で起こる異物混入疑惑。しかし調査の結果は異物は混入されていないという。そして久里子に訪れた春の予感…。事件はファミレスのシステムを上手く(卑怯に)利用したもの。にしても、吐くかは疑問。それよりも私は久里子の恋の行方が気になった。ラストに笑わされる。
  • 「その人の背負ったもの」…「ロンド」の近くの家の子が行方不明になる。しかも、その時刻、その子を連れていたのは国枝老人だった…!?掉尾で白眉の物語。物語の最初から何となく感じていた違和感が、最悪のカタチで噴出。ミスリーディングだというのは分かっているんですが、久里子と一緒にドキドキしました。国枝が事件を起こし、久里子が解決する珍しい形。細かい所が少し納得いかないけれど、信じていた人に裏切られなかった安堵感は心地良い。ラストもいい感じ。

賢者はベンチで思索するけんじゃはべんちでしさくする   読了日:2005年10月13日