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青葉の頃は終わった (光文社文庫)

青葉の頃は終わった (光文社文庫)

河合瞳子が大阪郊外のホテル七階から飛び降りた。周囲を魅了した彼女の突然の死。大学卒業から五年、その報せは仲間に大きな動揺を与えた。そんな折り、友人たちに瞳子からのはがきが。そこには、わたしのことを殺さないで、とあった。彼女を死に赴かせたものは? 答えを自問する残された者たちが辿り着いた先は? ほろ苦い青春の終わりを描く感動のミステリー。


なんとも近藤さんらしい作品、と思わせられた。ただし良くも悪くも。
本書はある日突然、10年来の友人である女性・河合瞳子が謎の死を遂げる、というミステリっぽい幕開けを見せる。が、その後の展開は通常のミステリとはかなり違う。本書で力点が置かれているのはアリバイやトリックではなく、死んでしまった女性の不在を受け止め、その死の真相に思いを馳せる友人たちの心理。なので本書はミステリの中でも最も広義の作品。しかし作者の試みは針の穴に糸を通すような非常に繊細で、集中力を要するものだった。互いを知り尽くしている仲間たち、その関係性、そして各自の人生、人間関係の中で非常に複雑な力学の数式が解かれた時、真実が姿を現す。奇麗事だけではない、少し意地悪で幾分自分勝手な青春の終わりを描こうとする点が、なんとも近藤さんらしかった。
…と、読了後に全体の構成を解いてみると作者の狙いも分かるような気がするのだが、読書中、読了直後は何ともまとまりのないチグハグな印象を受けたのも事実。瞳子の死から遠ざかろうとするような展開の連続、そして後述する特殊な真相がミステリを読んだ、というカタルシスを与えてはくれなかった。
チグハグの原因の一つは初出の連載誌と思われる。連載誌は季刊「ジャーロ」。季刊誌なのである。全四話の作品の第二話以降は単独でも(初読の人にも)読めるように構成されているように思える。それは作者の雑誌読者への配慮でもあるのだろうが、一つの長編として読んでみるとエピソードが散らかっている。それぞれのエピソードが各登場人物を均等に立体的に浮かび上がらせるとか、一つの結末が読者に真相を示唆しているとか後々思い当たる事もあるのだが、第一話と最終話だけでも物語が成立するのも事実である。全四話はそれぞれに起承転結の役割を果たしてもいると思うが、「転」である第三話の急展開には驚くと言うよりも呆気に取られた。私的に第三話は色々謎です。猛の性癖とか。
真相に関しては理解出来るような出来ないような、というのが正直な感想。作者の狙いもその難易度の高さも分かるつもりではいるが、それにはもう少し彼女を死に至らしめる心の描写やエピソードを積み重ねて説得力が欲しかった(ミステリ的には)。明かされる真相も事実だろうが個人的にはあの人物の行動は「悲劇の主人公」願望でしかないと思うし、その人の幼さこその方が罪であるように思う。
死んだ瞳子を始め女性たちが非常に印象に残る作品。繊細で、勝気で、我が儘で、脆くて、強くて、臆病で、それで本当の事は胸に秘める女性たち。けれど男性よりも客観的で鋭く、現実的で冷静に生きる。男性は自分の世界の妄信的な住人でしかない。なるほど男女の垣根を超越してるという意味で瞳子のゲイの友人は、言わば神のような視点を持っていたのかもしれない。God Knows.
個人的には松尾由美さんの『ブラック・エンジェル』に似ていると思った。どちらも突然この世を去った一人の女性の死の謎を探るという設定(真相も?)が似ている。

青葉の頃は終わったあおばのころはおわった   読了日:2009年07月13日