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アンノウン (文春文庫)

アンノウン (文春文庫)

侵入不可能なはずの部屋の中に何故か盗聴器が仕掛けられた。密室の謎に挑むのは防謀のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。犯人の残した微かな痕跡から、朝香は事件の全容を描き出す。完璧に張り巡らされた伏線!重厚なテーマ性!リアリティ溢れる描写力!!熱く、そして端正な本格ミステリが登場した!!


この小説自体が防衛部調査班の朝香二尉みたいだ。背格好はスマート・頭も切れる・そして短・中距離が得意。けれど、茶目っ気も含んでいる。「安穏(あんのん)」と調査をこなす彼の全てが詰まっているような作品。本書では殺人も起きないし、高価な美術品が盗まれるわけでもない。ただ盗聴器が仕掛けられるだけ。しかし、そこは閉鎖された基地内のオートロックの部屋。その謎と謎の解明がこのページ数に端正に収まっている。一見、地味だが実はとても美しい造形である。
この小説で何よりも特徴的なのは探偵役の朝香のスタンスではないだろうか?つまり事件が発生した現場も事件を解決する本人も自衛隊という組織内にある。だから事件の発覚から解明まで極秘裏に行われなければならないし、どうしても身内の感情が切り離せない。例えば、世の探偵たちがミスディレクションに引っ掛かって無辜の者を犯人と名指しする事はミステリではよく目にする場面だが、彼にはその失敗は許されない。後処理の事や人物関係の変化に気をとられない、いわば無責任な探偵とは違い、彼は孤独の内で闘い、全貌が見える最後まで告発ができないのだ。その張り詰めた緊張の糸を見せない朝香の心中やいかに。その孤独な闘いの補佐役に任命された野上三曹。彼と朝香とのお互いの立場を斟酌する態度がいい。野上三曹の資質に気づく朝香も朝香の微妙な気遣いや立場を考えられる野上の優しさが心地良い。自衛隊という組織を下から見上げた時に見える景色について考えさせられた。小説としても興味深く、そして面白かった。

アンノウン   読了日:2001年06月04日