- 作者: 京極夏彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/09/05
- メディア: 文庫
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夫を四度殺した女、朱美。極度の強迫観念に脅える元精神科医、降旗。神を信じ得ぬ牧師、白丘。夢と現実の縺れに悩む三人の前に怪事件が続発する。海に漂う金色の髑髏、山中での集団自決。遊民・伊佐間、文士・関口、刑事・木場らも見守るなか、京極堂は憑物を落とせるのか? 著者会心のシリーズ第三弾。
今の所、2打数2安打(1ホームラン)の京極さんの3打席目。…あれっ、今回は空振り三振!? いや、勝負を避けたフォアボール(もしくは敬遠)かな?
シリーズで初めて冗長さを感じ、初めて読後にモヤモヤが残った。複雑怪奇な謎を吸い上げた巨大な台風を読者に直撃させ、読書中、立っていられない程の暴風雨で翻弄するのが本シリーズの魅力。だがそれも京極堂の謎解き=「憑物落とし」が終われば雲散霧消し、台風一過のようなに爽やかな快晴=カタルシスが待ち受けている。しかし本書にはそれがない。確かに本書でも京極堂は事件に関わった登場人物たちの心のモヤモヤを晴らす事に成功している。でも今回はその憑物の落とし方に快刀乱麻を断つ様な印象を読者は受けないだろう。なぜならメインである殺人事件の他の2つの「憑物落とし」が、直接の証拠が提示出来ない事柄で、京極堂の知識と傍証だけで解決への過程を踏むからだ。勿論、憑物が厄介な事例だけに直接の証拠なんて提示出来る訳も無いのだが…。明確な真実でなくても各人の「憑物」が落ちれば良い、というのが京極堂の姿勢なのだろうが…。250ページと「歴史的」な長さを誇る憑物落としの内容は「QEDシリーズ」かと思った。
しかし読了し、作品全体の構成をじっくり考えると本書の狙いが少しだけ見えてきた(気がする)。全ては、そう、『狂骨の夢』なのだ。夢と現実を行き来する様に生きる女性・朱美、その彼女は夫の「頭」を何度も切り落とす。一方、「頭」蓋「骨」の強迫観念に脅える元精神科医の降旗。幼い頃の実体験から「骨」にトラウマのある牧師・白丘。彼ら3人はその夢・精神・信仰・宗教という内的世界に問題を抱えるという共通点ある。その共通点と「頭」「骨」「夢」という共通項が、1つ1つの謎を有機的に結び付け大きな謎として読者を幻惑させる効果を担っている。
読者の目前に巨大な謎を出現させる手法はやはり上手いが、今回ばかりは焦らしと薀蓄が過ぎる。奇々怪々な事件を演出するのが前半の目的で、読者としては強烈な体験までの待ち時間ぐらいとして甘んじて受け入れなければならないのだろう。が、今回は待ち時間が余りにも長すぎる。何度か順番待ちの列から外れようかと思ったぐらい。読了すれば前半の「朱美」の独白も、それぞれに「分析」をすればその意味や意義に気付くのだが。 今回は謎の解決には伏線ではなく前置きがあるばかり。京極堂の謎解きにも「はぁ…」と呆けた様に頷くしか出来なかった。
シリーズ物としてメインの登場人物4人の配置の絶妙さが見えた。関口は事実を必要以上に陰鬱に捉える事で読者に不安を与え、木場は目前の疑問を即座に行動し解決する。そして職業探偵の榎木津はヒントにならないヒントを読者に与え、探偵役の京極堂は最後の最後まで焦らす。私は京極堂が一番嫌いです(笑)