- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/28
- メディア: 文庫
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「わが村には特殊な道祖神が祀られている。」美貌の民俗学者・蓮丈那智のもとに届いた手紙。神すなわち即身仏なのだという。彼女は、さっそく助手の内藤三国と調査に赴く。だが調査を終えた後、手紙の差出人が失踪してしまった…。那智はいにしえの悲劇の封印を解き、現代の事件を解決する(表題作)。山人伝説、大黒天、三種の神器、密閉された昏い記憶。本格民俗学ミステリ集。
シリーズ2作目。シリーズ物の強みを感じた作品。まず第一に読者(私)は「読み方」を知っている。本シリーズは民俗学者・蓮丈那智とその助手・内藤三國による民俗学の調査パートと、それに即したような事件パートの2つの構成から成る。更には本シリーズの「レベル」や「平均点」も知っている。初対面の緊張はなく、既知の安心感を持って接せられる。また登場人物の意外な一面や関係性の変化なども楽しみに加わる。私はミクニみたいな(表面上は?)情けない男が好きなので、彼の活躍だけでも今後も読めてしまうかも。しかしミクニは一人で驚いたり凹んだり忙しい人である。喜怒哀楽や躁鬱の変化の激しい彼が本編をドラマティックにしているとも言えなくはないが、過剰なリアクション・描写に辟易することも…。
解説でも指摘されている通り、本書では大学内で大学関係者が巻き込まれる事件が多い。だが象牙の塔で、こんなに立て続けに事件が起こるかは甚だ疑問。「これはミステリだから…」という話もあるが、どうも人が短絡的に行動し過ぎていて好ましくない。殺人こそが究極の犯罪で「本格ミステリ」らしいと捉えているのかもしれないが、皆が皆(特に学者が)一足飛びに殺人に走るだろうか。那智に怒られて凹むミクニが、殺人事件では特にダメージを受けてない事が不思議。
- 「秘供養」…東北の人さらい伝説をレポートの課題にした那智。だが課題に対し優秀な考察をした学生が焼死体で発見され…。那智が負傷したため病床探偵に。民俗学の結論も大学内の話も最後の短編と似ているかな。本編で「狐目の男」の正体が明らかになり、以降、活躍の場面が多くなる。彼の過去も気になるトコロ。
- 「大黒闇」…学内で活動する新興宗教団体。そこに入り浸る兄を助けて欲しいという依頼が内藤先生にもたらされるが…。骨董は別のシリーズですね。小ネタを使ったという印象が拭えない事件の真相。ラスト数行が怖い。このラストは泡坂妻夫さんのとある短編を連想した。ミクニの発想力も徐々に飛躍している?
- 「死満瓊」…研究者同士の報告会に行ったはずの那智が10日余り消息を絶つ。やがて車内で発見された彼女の横には遺体があり…。またまたミクニ大活躍。真相披露のあのシーンと最後の1ページに大興奮(?)。しかしこの動機・証拠は…。作者は学問や学者というものを誤解しているように思う(私も知らないけど)。
- 「触身仏」…表題作。あらすじ参照。この事件ぐらいでしょうか那智が係わらない、展開に無理がない事件は。民俗学の真相がどれも解説者が言う所の「華麗」で「派手」なせいで、パターン化されてる感がある。シリーズを通して印象的なのは山の存在。山人・製鉄・税所コレクション、これらは今後もキーワードになるはず。
- 「御蔭講」…連丈研究室に新しい女性の助手が来た。彼女の存在と能力に焦りを感じる三國。だが彼女が研究室に来たのには理由があり…。スキャンダルだらけのこの大学。一体、何人の学生が犠牲になっているんだ!? 作中の「アイドル考」が面白い。今もお神輿に乗せられている何人かの顔が浮かぶもんなぁ…。