- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/01/29
- メディア: 文庫
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“異端の民俗学者”蓮丈那智。彼女の研究室に一通の調査依頼が届いた。ある寒村で死者が相次いでいるという。それも禍々しい笑いを浮かべた木造りの「面」を、村人が手に入れてから…(表題作)。暗き伝承は時を超えて甦り、封じられた怨念は新たな供物を求めて浮遊する…。那智の端正な顔立ちが妖しさを増す時、怪事件の全貌が明らかになる。本邦初、民俗学ミステリー。全五編。
民俗学の一考察に加えて殺人事件の謎、そしてそれを70ページ弱の短編に収めようとする欲張りな作品。ただやっぱり詰め込みすぎは身体に良くなくて、少々、消化不良気味。専門用語が多いのに、枚数の関係からか説明が非常に少ない。特に、本書の売りである民俗学部分は、読者に知識を浸透させる間のないまま進んでしまうので、学問の面白さ・深さがいまいち伝わってこなかった。
前半2編は正直しんどい。民俗学とミステリをしっかりと融合させるには、少なくとも中編以上の長さが必要ではないか。これは私の読解力不足だけではないと思う。後半3編は読者・作者、双方の慣れからか読み易く、かつ面白かった。
今尚残る伝承から日本の歴史を検証するという点では高田崇文さんの「QEDシリーズ」や、鯨統一郎さんの『邪馬台国はどこですか?』を連想した。学問だけでは弱いインパクトをミステリを加える事で補強しようとする意図なのだろうが、かえって継ぎ接ぎした粗が目立ってしまっている気がする。 構成や文章を再考すれば、『邪馬台国〜』のように推論だけでも楽しめるのではないか。
- 「鬼封会(きふうえ)」…那智の授業を受講する男子学生が送ってきたビデオ。そこに映る奇妙な祭祀、しかし男子学生はストーカーで…。ワトソンの地道な捜査、ホームズの慧眼という王道パターンを踏むものの、民俗学の部分は何が何やら…。作者ばかりが先走り、読者に十分な予備知識を与えていないような。
- 「凶笑面(きょうしょうめん)」…評判芳しくない骨董屋店主から依頼された笑いを浮かべる面の民族調査。しかし、店主は調査期間中に殺され…。今回は民俗学の面白さが伝わった。その一方、これで殺人に発展するか?というミステリへの疑問が湧いた。那智という異人がいつも不幸を運んでくるように見えるが…。
- 「不帰屋(かえらずのや)」…東北の寒村に残る、特異な構造の離屋。周囲に雪が残る離屋を調査中にまたしても殺人事件、しかも密室状態…。本書のベスト1。密室・民俗学の謎の両方が舞台としっかりマッチしている。現代では考えられない事だが、生活が生きる事と直結していたのは、そう昔の事ではない。
- 「双死神(そうししん)」…地方史家の弓削に招かれ、独り鉄生産の歴史調査をする三國。だが、その弓削は事故に…。民俗学の真相が(→)古代朝廷の権力争い(←)とは、いよいよ「QEDシリーズ」っぽい。事件のトリックの伏線は思わぬ箇所に。3つのシリーズがあの店に会すけど、これって<<狐>>の作品のプロローグ?
- 「邪宗仏(じゃしゅうぶつ)」…両腕が肩の部分から失われた仏像の調査に向かった那智ら。しかし現地では仏像と同じ姿になった殺人事件が…。民俗学と歴史の境界線が曖昧になってきたような。聖徳太子=キリスト説なんて、いよいよ『邪馬台国〜』っぽい。すると、いよいよ殺人事件が蛇足に思える。どうなる続編!?