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水に眠る (文春文庫)

水に眠る (文春文庫)

見合い話に苛立ち、後輩の若さがふと眩しい美也子の淡々とした日々に鳴り響く謎の電話。そして一年が過ぎて…「恋愛小説」。同僚に連れていかれた店で飲んだ水割りの不思議な味。ある切ない夜、わたしはその水の秘密を知る…「水に眠る」。人の数だけ、愛がある。様々な愛の形を描く短篇集。


北村さんの非ミステリ短編集。↑のあらすじ通り様々な愛や関係性についての10の短篇たち。感覚的な短篇があったり、SFのような変わった設定や状況の中での想いがあったり盛りだくさん。短篇は少ない言葉で人物や背景を読ませるので、作者にとっては難しく、読者にとっては長編よりも自分で味わえる幅が広いので好きになったら、どこまでも好きになる特性があります。ただ方向性がバラバラなので私の好みにグサッとくる作品もあれば外れる作品もあり、と。しかし言葉の選び方、表現方法、会話の妙、そしてどこか「水に眠」っている様な不思議な安心感。それは文章が、短篇「水に眠る」に出てくるあの水に包まれている感じがする。
いつも短篇にはあらすじをまとめてますが、あらすじを書くと長くなるので今回は感想だけ。最後の括弧は文庫版でそれぞれの短篇を解説している方のお名前。全体の総論を書いている水星今日子さんを含めて11人の豪華解説陣。けれど短篇なので解説しようもなく、解説って言うよりも感想と呼ぶ方が合っていると思う。

  • 「恋愛小説」…ファンタジーに近いですね。受け入れられるか、られないかです。結婚を焦る年齢が今(05年)よりも早い。タラちゃんがいい。(「光原百合」
  • 「水に眠る」…最初の3篇はどこかしら共通する部分があると思う。この不思議な水に主人公の喜びと悲しみが詰まっているのが、切ない。(「有栖川有栖」
  • 「植物採集」…一番好きかも。タイトルと主人公の行動が何ともいい。片想いって不安定で苦しいけど一番自分自身で楽しめる状態だと思う。(「加納朋子」
  • 「くらげ」…一番覚えていた。初読時に感じたのは怖さ。ただ今の携帯電話もこのような状態。「自分専用」は忍び寄る孤独の影かもしれない。(「貫井徳郎」
  • 「かとりせんこうはなび」…前の一篇と似ている。純粋な理由から始まった事が自分や相手をも苦しめてしまう。一番やりきれないパターン。(「若竹七海」
  • 「矢が三つ」…すごい設定だ…確かにその社会では合理的ではあるが。考えれば考えるほど色々と怖い。タイトルはサイダーだと思った。(「近藤史恵」
  • 「はるか」…親父転がし?(笑)書店を経営する独身40男とアルバイトの女子高生の普通の話。この書店、絶対どこかにあるはず!と思う作品。(戸川安宣
  • 「弟」色々とブラックなお話。好きではありません。でもキッチリとドラマも織り込まれていて一人の人間の悲喜交々が味わえる作品。(「おーなり由子」
  • 「も」がたり」…変な話ですが一番エロいと思った(笑)隠微な淫靡。チラリズムというか、ただ視線を交えるだけが一番エロかったりするの。(「山口雅也」
  • 「かすかに痛い」…眼鏡の具合が悪いと気持ちも不安定というのは眼鏡っ子なら分かるだろう。これだけで女性の心理を表しているのがすごい。(「沢木喬」

水に眠るみずにねむる   読了日:2000年10月05日