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夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち―ふたりの友人、姉―を核に、ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。第四十四回日本推理作家協会賞を受賞し、覆面作家だった著者が素顔を公開するきっかけとなった第二作品集。


今ではあの優しそうな笑顔のお写真がどこでも見られますが、北村さんは元・覆面作家だったのか。『空飛ぶ馬』の時は憶測が憶測を呼び、女性説が有力だったとか。確かに、女性だと思ってしまうのも頷けます。一文字一文字に魂がこもっている。文字を選び、会話を楽しむ。不必要な文字が一つもない、引き締まった文章。思えば呼吸するように本を読む「私」に憧れて、本を読もうと決意したような。読むジャンルは全然違いますが、読書というものに触れるきっかけになりました。その文章から溢れてくるゆっくり優しい空気は円紫さんシリーズの最大の魅力です。

  • 「朧夜の底」…友達の正ちゃんのバイト先の書店で起こる、連続書籍逆さま事件。果たしてその真相は?真相も驚きますが、「私」と「あんどー」さんの一時接近、これにはドキドキしました。本屋・本、まさに本好きのための一編。円紫さんが終盤にしか出てこないのは残念。もっと「私」と円紫さんとの会話が聞きたい。
  • 「六月の花嫁」…友人の江美ちゃんに誘われて、江美ちゃんのサークルメンバーと共に軽井沢へ。そこで起こる「三題噺」、駒・卵・鏡。その真意は?とても好きな話です。論理的にも話的にもとても洗練されていると思う。どのエピソードも「私」と円紫さんの人柄の表れた話。思わぬ展開にビックリしましたがタイトルに納得。
  • 「夜の蝉」…姉の恋の話。ある時、歌舞伎の券を会社から恋人に郵送した。しかし当日その席に現れたのは「お化け」だった。姉と「私」の姉妹の話でもあります。だんだん女性らしくなる「私」、それを指摘する姉。「私」の周りの大切な人達の話。北村さんの描く世界は、温度があり美しさがある。最後のセリフは印象的。

夜の蝉よるのせみ   読了日:2000年09月上旬