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川の名前 (ハヤカワ文庫JA)

川の名前 (ハヤカワ文庫JA)

菊野脩、亀丸拓哉、河邑浩童の、小学五年生三人は、自分たちが住む地域を流れる川を、夏休みの自由研究の課題に選んだ。そこにはそれまでの三人にとって思いもよらなかった数々の驚くべき発見が隠されていたのである。ここに、少年たちの川をめぐる冒険が始まった。夏休みの少年たちの行動をとおして、川という身近な自然のすばらしさ、そして人間とのかかわりの大切さを生き生きと描いた感動の傑作長篇。


子供×夏休み×冒険×動物×友情、とジュブナイルのロイヤルストレートフラッシュとも言える要素が詰まった作品。…あれっ、でも本書ってジュブナイル作品なのだろうか? ストーリーとしては、町の中で自分たちしか知らない場所=秘密基地で、またまた自分たちしか知らない物と遭遇して、彼らは自分たちの大切な物を守るために精一杯尽力するという王道と言うべき展開。しかし、彼らのひと夏の体験に羨望や憧憬を覚え、教訓を得るのは大人たちかもしれない。
主人公・脩は小学五年生。例年ならば夏休みはカメラマンである父に同行して世界各地を巡っていたが、今年は同行しなかった。彼にとって1つの地に留まる初めての夏。この脩の設定・境遇こそが一般的なジュブナイルとは異なる点だろう。通常ならば夏休みは冒険=広い世界を知る、うってつけの期間だが、脩は「冒険をしない夏」が初めてであった。そして彼は既に同年代の誰よりも広い世界を知っている。父と共に世界を股に掛け冒険をし、多様な経験をしている特別な子供だ。しかし彼は転校続きでいつも常に余所者であった。本書は根無し草だった脩が、その土地に根を張る、自分の居場所を見つける物語でもある。しかし本書では通常の自分・居場所探しの物語とは逆方向からのアプローチで語られている。
書名の通り、本書は川をテーマにしている。川は下流へ流れ、河口は海に、世界に通じる。川は世界への出口である。だが、本書は広い世界を見よ、とは訴えない。むしろ、まず足下を見よ、と警告する。自分の住む場所を知ってからこそ、広い世界を知るべきだ、と。この警告も本書が訴える事は、大人にこそ響くものかもしれない。後半の騒動には誰もが現実のアノ騒動を連想するだろう。あれも凄い熱狂振りだったが、私たちは闖入者の存在無くしては、川の現状すら知ろうとしない実例の一つだろう。また終盤、商業主義や大人側の身勝手な言い分に子供たちが対抗する様子は『ぼくらの七日間戦争』を想起した。
主人公グループは西遊記みたいであった。お調子者の脩は猿、河童は思慮深いカッパ、猪突猛進型のゴム丸、万能な手嶋は三蔵法師だろうか。子供たちのタイプは一見類型的ではあるが、前述の通り、主人公の造形が少し変わっていて、それによって本書のテーマも通常とは異なる方向から語られる。
テーマや人物造詣、登場人物たちの交流の深め方など考え尽くされた構成。だが、その一方で綿密な計算が見え隠れして小説として優等生になり過ぎて面白みに欠けた、と不満に思う部分も。どこまでも作者の影を感じてしまうのだ。全ての事象に伏線が敷かれているし、端正な構成なのだが、淡白というかあまりにもソツが無さすぎる。また参考書籍から得た考えが露骨にアピールされ過ぎているようにも思えた。完成度は高いし良い小説だとは思うのだが、胸が震えるような感動は覚えなかった。小説としてもっと活き活きとして欲しかった、と思う。

川の名前かわのなまえ   読了日:2008年12月04日