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映画篇 (集英社文庫)

映画篇 (集英社文庫)

映画の力で導かれた記憶の中の僕は、いつでも軽やかに笑い、素直に泣き、楽しそうに手を叩いていた―。不器用で孤独な人々が映画をきっかけにつながり合い、力強い再生へと踏み出していく姿をみずみずしく描きながら、映画への愛と物語の復権を高らかに謳った傑作小説集。友情、正義、ロマンス、復讐、そして、笑いと感動。五つの物語の力が、あなたを救う。


あらすじの通り、映画をモチーフにした短篇集。同じ(?)「〜篇」シリーズである『対話篇』の感想文と重ねるならば、本書の5つの短編にも幾つかの型がある。まずはもちろん題名になっている映画への愛、そして8月31日の区民会館での『ローマの休日』上映会・キラキラした目の輝き・親(多くは父親)の不在、もしくは夫の不在・新薬開発の舞台裏・少しイカレた精神・人が恋に落ちる瞬間・友情が生まれた瞬間などだ。もちろん、それぞれの短篇に独自の持ち味がある。ハードボイルドあり、社会派あり、ヒューマンドラマあり。他にもファミリードラマ・逃避行・復讐劇・ジュブナイルに青春といった様々な映画のジャンルが詰め込まれている。
全ての短篇が「ローマの休日」の上映会に関わってくる事で、全体が一つの群像劇のような感触を持ち、それぞれの人生、それぞれの一日に思いを寄せる事になる。同じ場所で同じ映画を見る人たちの、一つとして同じもののない人生。最後の短篇「愛の泉」で、これまでの短篇をもう一度思い返した。
金城さんの文章はどこか鋭利で、登場人物たちの凛とした立ち姿や思考などが心地良い。また物語が一つに集まる8月31日が間近に迫っているこのタイミングでの出版、読書はなかなかに趣深かった。欠点を挙げるなら何度も現れる傍点が邪魔かな。作者が伝えたい文章って、自ずと読者にも伝わるはずだもの。

  • 太陽がいっぱい」…小説家になった男が思い返す映画に夢中だった日々と、いつも隣にいた友人のこと…。俺たちずっと親友だよな、なんて科白は通常の友情では登場しない。確かに繋がっていたけど、今も繋がっているかは不確かで主人公は距離の取り方に悩む。距離を計り過ぎて近づけない主人公が歯痒い。最初の短篇としてはちょっと重い感じで、最後の幸福なエピローグが裏返しに悲しい。
  • 「ドラゴン怒りの鉄拳」…連れ合いの自殺から家に閉じこもっていた女性に一本の電話が鳴る…。私はニカッと笑う登場人物が好きなので鳴海くんは特にお気に入り。少しずつ誠実に距離を詰めていく態度も好き。本当の愛情・思い遣りってこうだよね。アクション映画は爽快感と勇気をくれる。物語の背後に見え隠れする社会派の黒い影に立ち向かう勇気は稀代の名俳優・タンロンに貰った。
  • 「恋のためらい/フランキーとジョニーもしくは トゥルー・ロマンス」…クラスでたった一人、会話を交わした同級生と計画する現金強奪…。石岡の考え無しの計画はちょっと幻滅。だけどガラスの十代の危うい感覚は好き。世界で二人きりの精神的繋がり。少しのきっかけで自分は壊れるかもしれないし、少しのきっかけで自分は救われるかもしれない。そのきっかけは一本の映画でもいいはずだ。
  • 「ペイルライダー」…夏休み最後の日、小学3年生のユウはショッピングモールでハーレーに乗るおばちゃんに出会った…。少年が大人に変わる特別な一日。このおばちゃんもニカッと笑う。けれど鳴海くんの笑いとは性質が少し違う。一番暗いところを見た一番明るい笑顔。ラストは映像的インパクトのあるシーン。映像を想像すると緊迫感と表裏一体の滑稽さがある。前代未聞のアクション俳優だ。
  • 「愛の泉」…夫を亡くしてから意気消沈している祖母を元気づけるため、孫たちはある計画を進める…。短篇集の掉尾を飾るに相応しい素晴らしい短篇。この短篇は全篇、陽性の物語である。善意で全力を尽くした上映会だったからこそ、来訪者の心を動かす力があったのだろう。一本の映画がまた人の人生を変える。浜石教授や区民会館の人たちとの交流も良い。いとこ同士の交流は竹内真さんの『カレーライフ』を連想。好きな言葉は、アホの子(笑) アホの子は最強です。

映画篇えいがへん   読了日:2007年08月11日