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ZOO 2 (集英社文庫)

ZOO 2 (集英社文庫)

天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集その2。目が覚めたら、何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇(「血液を探せ!」)、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?(「落ちる飛行機の中で」)など、いずれも驚天動地の粒ぞろい6編。文庫版だけのボーナストラックとして、単行本に入っていなかった幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。


全体の感想は『Z一』に延々と書いたので、今回は短編の感想のみ。『Z一』と同じく本書も不条理に満ち満ちている。本書の5作品で言うと、1編目は人の痛みを感じない人々が、2編目は主人公の虐待と主人公の虐殺が、3編目はネタバレになるから自粛、4編目は世界を覆う主人公の言葉が、そして5編目は身勝手なハイジャック犯(と登場人物たち)が、6編目は救わない(掬わない)結末が。
本書は『Z一』に比べると最後の「救済」が少なかった。映画化された作品との違いはそこかな。特に4編目は乙一作品史上最悪の大量殺人ではないか(『Z一』の4編目も同じぐらいか。ただ本書の方が不条理で残酷だ)。
書き忘れた事としては、乙一作品の贅沢なアイデアの使い方が好きだ。短編に適したワンアイデアもあるが長編化や、思い付いた事に力んでしまう卓抜なアイデアもしれっと遣って退けてしまう作家としての技術の高さ、自意識の低さが好きだ。

  • 「血液を探せ!」…あらすじ参照。改めて乙一先生はミステリ作家でもあるんだなと思った(飽くまで一部)。単純なトリックだが設定を上手く活用。残酷さの中に尊厳を描くアンバランスな先生は、刺傷事件の中で笑いも描く。血塗れの重傷者の死を目を爛々と輝かして待つ悪魔たち。しかしこれは変わった「救済」方法である。
  • 「冷たい森の白い家」…子供の頃に顔がへこんだ男はその後、会う人間を殺し続け、死体を材料に森の中に家を建てた…。本編もまた姉弟の話。姉は弟の苦境を救うために自己犠牲を厭わない。しかしこの男の救い方は…。先生の作品は人に薦めたり、人に好きだと公言するのを憚れる事だけが唯一最大の欠点だ。
  • 「Closet」…義弟の死体を隠す事に奔走する兄嫁だったが、義妹に鋭い質問を投げかけられ絶体絶命…。おいおい一体幾つのミスリーディングを用意してるんだい、と感心。再読必至の変形倒叙ミステリ。扉一枚を挿んだラストの攻防は息を呑む緊張感。スキップする場面転換と視点の入れ替えが本当に上手い。
  • 「神の言葉」…自分の念じた言葉が動植物に絶対の服従をもたらすと知った「僕」は安らかな生活のため言葉を行使する…。混乱手前の納得。自意識のお化けが神になった世界の終末。この救済の形は歪だ。終末を迎え初めて救われ、しかも安堵するとは…。絶対の拒絶。A.T.フィールドも出せちゃうかもね。
  • 「落ちる飛行機の中で」…あらすじ参照。延命による生ではなく、絶命の死に方に値段を付けるという逆転。乗客を助けたい、助かりたい人たちが死に、状況を簡単に受け入れ、諦めた者たちが死の商談をするこのシュールさ。しかしこの犯人像にリアリティを感じてしまう現代の恐ろしさよ。夕日は再び夕日に繋がる。
  • 「むかし夕日の公園で」…無限の可能性を秘めるこの先の展開をバッサリと断ち切るような「だめ」の二文字に潔さを感じる。珍しく結構常識的な主人公?

ZOO 2   読了日:2010年08月05日