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きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)

きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)

私にはケイタイがない。友達が、いないから。でも本当は憧れてる。いつも友達とつながっている、幸福なクラスメイトたちに。「私はひとりぼっちなんだ」と確信する冬の日、とりとめなく空想をめぐらせていた、その時。美しい音が私の心に流れだした。それは世界のどこかで、私と同じさみしさを抱える少年からのSOSだった…。(「Calling You」)誰にもある一瞬の切実な想いを鮮やかに切りとる"切なさの達人"乙一。表題作のほか、2編を収録した珠玉の短編集。


乙一さんは発明家である。この世にない物・この世にない能力を、その恵まれた想像力によって小説世界に登場させている。この世にはない頭の中で鳴り響く携帯電話、少女の顔を持つ花、そして傷を移動させる能力。さながらそれは『ドラえもん』における秘密道具のようなもので、それらがこの世にあったらどうなるかという空想を小説にしているように思える。乙一さんが『ドラえもん』に多大な影響を受けたというのも頷ける。
このように本書の内容はSF(少し不思議)でありファンタジーであるのだが、ファンタジーだからこそ描ける感動があり、ファンタジーではあるが現実的な痛みも伴っている。そのバランス感覚が乙一さん独自のセンス。きみにしか書きえない。
乙一小説はついつい2回読んでしまう。御本人言うところの「ついやってしまう演出」を多用されているからだろうか。1回目と2回目は読みどころが全く違う。

  • 「Calling You」…表題作。あらすじ参照。携帯電話という現代的で個人的な機器を上手く取り入れた作品。一つ間違えば正しく「電波」な設定だけれど、その設定を活かしたラストである(しかも二重に!)。携帯電話だけでなく、ラストで彼が彼女を見分ける小道具の使い方の上手さに腹が立つ(笑) 顔を見た事のない他人に心通わせるというのはネット上の交流にも当てはまるだろう。危険のないように…。
  • 「傷−KIZ/KIDS−」…人に触れる事でその人の外傷を自分の身体に移動、または自分の外傷を他人に移動できる能力を持つアサトと知り合ったオレは…。外傷は目に見える分かりやすい不幸である。彼らは(家庭)環境的にも経済的にも恵まれていない。しかし本当の傷は目に見えない心の中にある。そんな遣り切れなさの中で見つけたかけがえのない存在。彼らは心の傷さえも移動・共有できる。
  • 「華歌」…列車事故により恋人を亡くし、自らも入院中の私はある夜、病院の敷地内で少女の顔を持つ花を見つける。そして、その花の少女は歌を歌い…。この短編はライトノベルの「ある特徴」も、とある事に使われている。というのも(→)挿絵も叙述トリックに一役買っている(←)のだ。もちろん乙一先生の文章だけでも十分。ちょっと典型的な話ではあるものの、ちょっと大人の物語に仕上がっている。
  • 「あとがき」…ある意味で自己紹介とあとがきが一番楽しい。その点ではツチケンと同じ。この「あとがき」のためにも編集者は上海蟹を! 蟹で鯛を釣りましょう。

きみにしか聞こえない CALLING YOUきみにしかきこえない    CALLING YOU   読了日:2007年10月12日