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平面いぬ。 (集英社文庫)

平面いぬ。 (集英社文庫)

ある夏休みに私は、友人とあの山に登ることにした。私が幼い頃、あの山に一人入って消息を絶った母親の遺体を探すためだ。山には古い言い伝えがあった。曰く「石ノ目様にあったら、目を見てはいけない。見ると石になってしまう」と。そして、私たちは遭難した…。 「わたしは腕に犬を飼っている…」ちょっとした気まぐれから、謎の中国人彫師に彫ってもらった犬の刺青。「ポッキー」と名づけたその刺青がある日突然、動き出し…。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描くほか、天才・乙一のファンタジー・ホラー四編を収録する傑作短編集。 斬新な文体で新しいホラー界を切り開く乙一の短編集。


これまで読了した乙一小説(まだ4作目ですが)の中で一番好きな作品。小説以外も入れるとベストは嘘日記『小生物語』なんですけどね…(笑)
目を見た者は石になるメデューサの神話や、動き出す人形・刺青、嘘から始まった架空の人物の噂といった既存の、決してオリジナルではない出発点から、乙一さん独自の要素を加える事によって、今まで読んだ事のない物語を完成させている。前作「天帝妖狐」といい、初期の乙一さんはアレンジャー作家なのかも…。既存のアイデアのアレンジといっても、着眼点やそのアレンジ方法に才能が発揮されていて、読者の予想の一歩先を行く展開、話の決着のつけ方、怖さと共に感動をもたらす不思議な文章などで、最後には完全に「乙一作品」にしている。
どの短編も、主人公と登場する有形・無形のモノとの関係はとても奇妙な関係なのだけれど、当人にとっては掛け替えのない関係で、その関係性を築かせる、気づかせるエピソードがとても上手い。なかでも「はじめ」、「平面いぬ。」では涙腺が緩みそうだった。奇妙な変化球の、ストレートな感動がまた意外なのだ。

  • 「石ノ目」…あらすじ参照。話の結末としては凡庸なのだけれど、「石ノ目」の正体に一工夫がされている。読者を勝手に先走らせ結末を予想をさせてから、それをラストで覆す、というのは乙一作品の長所であり、乙一さんの性格が捻じくれ曲がった人の悪い所(笑) この話を書くきっかけになったのは親元を離れた寂しさ、という自己分析は案外当たっているはず…。乙一さんも人の子、人間だもの。
  • 「はじめ」…嘘から生まれた架空の人物「はじめ」。だが次第に彼女は僕の中で形作られていき…。序盤は、褒め言葉として物凄く伊集院光さんテイスト。自分で作ったルールや妄想に引っ込みがつかなくなるのは伊集院さんの持病(笑) でも、この短編の素晴らしさはその先の展開にあった。こういう決着とは…、脱帽。怖さと感動を同時に描けるのが乙一さんのアンバランスさ(褒め言葉)。
  • 「BLUE」…他の4体の人形を作った余り生地で作られた不恰好な人形「BLUE」。彼女は人間からも、同じ人形からも冷たく扱われ…。道徳の教科書に載せるべき作品。社会の差別や、いじめ問題が描かれている。単純な様で深く、深いけれど深さを押し付けない作品。道徳の教科書を作る人、この作品ですよ。人形が夜、動く様子にはダウンタウンごっつええ感じ」のコントを連想した私デス…。
  • 「平面いぬ。」…あらすじ参照。冒頭から色々ととんでもない展開の物語だけれど、黙って受け入れましょう。伏線を伏線と思わせないのも乙一さんの特徴。だから「あっ!」と、思わぬ衝撃が読者を襲う。今回の衝撃は涙腺に直撃した。「泣ける乙一」初体験かも。人の呼称の仕方に登場人物たちの捻くれ具合が端的に表れている。姉弟の関係の描写には実体験も少し入っているのだろうか?

平面いぬ。(『石ノ目』改題)いしのめ(へいめんいぬ。)   読了日:2007年04月08日