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天帝妖狐 (集英社文庫)

天帝妖狐 (集英社文庫)

とある町で行き倒れそうになっていた謎の青年・夜木。彼は顔中に包帯を巻き、素顔を決して見せなかったが、助けてくれた純朴な少女・杏子とだけは心を通わせるようになる。しかし、そんな夜木を凶暴な事件が襲い、ついにその呪われた素顔を暴かれる時が…。表題作ほか、学校のトイレの落書きが引き起こす恐怖を描く「A MASKED BALL」を収録。ホラー界の大型新人・乙一待望の第二作品集。


本書はミステリよりもホラーとしての色が強い。これまで、どちらかというとミステリ作家としての乙一作品しか読んでなかった私は、ホラー作品の展開に戸惑ってしまった。勝手にミステリ的どんでん返しを期待しながらよんだので、ホラーとして普通の(?)結末を迎えた事に少なからず拍子抜けしてしまった。未読の皆さん気をつけて下さい。本書(特に2編目)はホラーです。ほーら、ホラーでしょ?
乙一ホラーは「日常系ミステリ」ならぬ「日常系ホラー」とでもいうべく作風。自分(読者)のすぐ隣にある恐怖が描かれている。「A MASKED BALL」ではトイレの落書き、「天帝妖狐」では狐狗狸(こっくり)さんが物語の端緒として使われている。導入部に誰にでも分かる身近な小道具を使って、そこから物語を思わぬ展開に持っていったり、更に深く暗く沈んでいったりする手法が上手い。そうすると恐怖も自分のすぐ隣に浮かび上がるのだ。読書前にお風呂は入っておきましょう…。
私は「A MASKED BALL」が好き。これに★4つ。解説で我孫子武丸さんも書いていたが、私もインターネットの掲示板を連想した。匿名の掲示板ながら、書き込めるのは学校内の人々のみという限定されたコミュニティ。これによって身近な連帯感と疑心暗鬼の恐怖が紙一重の世界を創り出している。設定が上手い。

  • 「A MASKED BALL」…喫煙するために人気のない学校のトイレを使う上村はある日、トイレで落書きを見つける。それに返事をしたことから5人での奇妙な交流が始まり…。犯人の正体よりも犯人側の手法に驚いた。目標の炙り出し方が上手い。騙された。主人公・上村と同級生との会話・交流、最後の3行がとても素敵。
  • 「天帝妖狐」…表題作。あらすじ参照。ミステリ、それも乙一さんのお得意のあの仕掛けがあると思い込みながら読んでしまったので、予想外の結末だった。だって、乙一さんで交互視点の構成とくればねぇ…。人間の悪意や異形の物に身体も精神も蝕まれながらも、最後まで人間としての矜持を忘れない夜木と、その精神に光を与えた杏子。別れの場面の台詞のやりとりはグッと胸に迫るものがあった。

天帝妖狐てんていようこ   読了日:2007年01月21日