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マドンナ (講談社文庫)

マドンナ (講談社文庫)

40代が分別盛りなんて、誰が言った?見た目は中年、中身はいまだ少年…。直木賞作家がユーモアたっぷりに描く新オフィス小説集。四十にして、大いに惑う。人事異動で新しい部下がやってきた。入社4年目の彼女は、素直で有能、その上、まずいことに好みのタイプ。苦しい片思いが始まってしまった(表題作)ほか40代・課長達の毎日をユーモアとペーソス溢れる筆致で描く短編5編を収録。上司の事、お父さんの事、夫の事を知りたいあなたにもぴったりの1冊です。


ニッポンの「カチョウ」の生態を描いた作品。各短編の主人公たちは「課長」であり「家長」である。その肩書きとは裏腹に、彼らはいつも中間管理職の立場。会社では上司の意向に従い、家庭では子供の話を妻から聞くだけ。長い年月をかけて築き上げた「カチョウ」の座なのに。しかし、そこに思わぬ転機が訪れる。美人の部下・同期の噂・異動・女性の上司、そして家庭にも異変が…。小さな転機が彼の生活の全てに影響し始め予想も付かない展開に、という話。
実は俯瞰してみれば各短編の主人公像はほぼ同じである。更には基本的に5編とも構成・内容がほぼ同じ。40代男性・会社員・妻子あり。仕事も人間関係も良好で社内の評判も上々、出世コースにも乗っている。この1,2年間の働き次第で最終的な地位が決まる大事な時期。という同じ設定の繰り返しの中に良いマンネリと、微妙に違う味わいがある。これは偏に作者の技量によるもの。社内での懸案と家庭内の不協和音を上手く重ねて相乗効果で面白さを引き出している。40代男性の微妙なスタンスを絶妙に描いている(と思う)。ラストはスラップスティックの様相を呈し、心地良く終わる。このドタバタ劇・物語の崩し方は「伊良部シリーズ」に通じる。リアリティとユーモアが渾然一体となり読者を物語に誘う。

  • 「マドンナ」…あらすじ参照。中学生みたいな片想いは本格的な不倫に比べれば罪が無い。けれど、罪が無い所に罪がある。また罪が無いと思っているのが罪だ。しかもバレバレ…。1編目だったので終盤の部下とのバトルとどんでん返しに驚いた。でもこの男、絶対同じ事を繰り返すと思う。それがまた重罪。
  • 「ダンス」…会社行事に参加しないマイペースな同期が降格人事の対象に。一方、家庭では息子がダンスを学ぶと言い出して…。本書で唯一、子供との会話がある短編。主人公がダンスに魅入るシーンが好き。その上での結末なので後腐れなく読める。親としての希望と息子の夢、その壁を乗り越えるのは酒の力…!?
  • 「総務は女房」…昇進への前段階として2年間、総務部へ腰かけ課長になった恩蔵。だが、その課は出入り業者と癒着関係があり…。バリバリ働いてきた主人公が直面する「なあなあ」の部署。社内の異文化に触れた人間が、良くも悪くも異文化に馴染む推移が面白い。各短編、どの会社も割と日本的な体制である。
  • 「ボス」…新任の部長は中途採用の同じ年の女性。欧米流の合理主義で部内の慣例を次々と改革していく上司に反発するが…。思わぬ場所で「山崎まさよし」の名が出てきた。彼は男性の敵である(笑) 会社と家庭、2つの場所の2人の女性の同じような行動が微笑ましいラストに繋がる。前者の方はちゃんと伏線もあって、本格推理できるかも。女性の動力源・楽しみとは何か、という話でもある。
  • 「パティオ」…閑散とする再開発地「港パーク」の集客を命じられた鈴木。ある日、鈴木はひとりで読書する男性の老人の存在に気づき…。この短編は子供ではなく親の話。これも40代で直面する現実なのだろう。40代頑張れ、と今は思えるが…。実は毎回、主人公と気心通じる若い女性社員が出てきて、彼女がまた良い味を出している。主人公はセクハラ気味だけど。40代、そこら辺の意識は極めて低い。

マドンナ   読了日:2007年11月23日