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誘拐ラプソディー (双葉文庫)

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

伊達秀吉は、金ない家ない女いない、あるのは借金と前科だけのダメ人間。金持ちのガキ・伝助との出会いを「人生一発逆転のチャンス!?」とばかりに張り切ったものの、誘拐に成功はなし。警察はおろか、ヤクザやチャイニーズマフィアにまで追われる羽目に。しかも伝助との間に友情まで芽生えてしまう…。はたして、史上最低の誘拐犯・秀吉に明日はあるのか? たっぷり笑えてしみじみ泣ける、最高にキュートな誘拐物語。


う〜ん…。本書単体での評価は7点。しかし、著者の作品で、本書の前に『ハードボイルド・エッグ』(以下『エッグ』)を読んだ私の評価は5点。だって内容、同じなんだもん…。
主人公は『エッグ』と同じく30代男性(本書は38歳・アチラは33歳)。彼らが成り行きで組んだ職業上のパートナーは(本書は誘拐犯と攫った6歳の子供・アチラは探偵と秘書の老婆)、最初は反発しながらも大きなトラブルを一緒に乗り越えていく内にやがて心を通わせる、という展開が全く同じなのだ。そして、その者との交流が30代男性の人生を立ち直らせる、という結末もまた同じ。途中で拉致監禁されてしまうのも脱出するのも同じだし…。いや、これは故意に似せて作っているに違いない。じゃなきゃ手抜きか作者の発想の乏しさ。どっちだろう…?
勿論、長所も似ていた。非常に映像的な作品で、一本のコメディ映画を見ているような感覚で読み通せる。読者の予測範囲内の物語でも一本調子にならないように配慮された展開とその技術、会話の面白さ、比喩の巧みさ、相棒との交流の微笑ましさ。登場人物の誰もが一癖ある設定なのも読み所。欲望のままに動く姿も、仕事と家庭の両立に悩む姿もとても人間的でその人物の輪郭がクッキリと浮かび上がる。冒頭から言い訳と予防線を張りながら自殺を考える主人公のダメっぷりに笑ったし、行き当たりバッタリの誘拐が警察以外の組織に追われて決死の逃避行になってしまうのも彼らしい展開。過去の出来事を哀愁のスパイスとして効かせながらも深刻になり過ぎずバランスの良い味付けになっている。ユーモア小説の荻原さんや浅田次郎さんが卑怯だと思うのは(褒め言葉)、不真面目な登場人物やそれまで無感情だった人物に急に人情を出す所である。その落差、隠された素顔に思わずホロリときてしまうのだ。その構造はヤンキーが更生するとなぜか美談になるのと似ている。人として正しくあり続けるのも美しいのに…。
閑話休題。本書では誘拐劇を通して自分の本性、捨てきれない愛情が描かれている点が良かった。生来の小悪党の自分が本当の死に直面した時の反応、冷徹な「社長」の真の素顔、その社長の内面をつぶさに感じ取る部下達の反応、死んだ者への尽きる事のない悔恨と愛情、そして裕福な子供がたくさんの「普通」を体験する数日間。誰にとっても実りのある誘拐であった。
欲を言えば、終盤にもう一盛り上がりあればな、と思った。ラストが水戸黄門的人物の登場で急に決着が付いてしまうのが残念。擬似親子のお別れもかなり淡白。その原因は『エッグ』に比べてパートナーの味が薄いからだろう。6歳の子供に深みのある個性を出せというのも無理な相談だが(むしろ頑張ってる方だと思う)、主人公だけが空回りしてる展開の連続は次第に退屈を呼んだ。最後の最後まで6歳の子供は誘拐と認識していないからこそ意味があるのは分かるのだが…。

誘拐ラプソディーゆうかいラプソディー   読了日:2008年12月25日