《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

東京、三鷹市井の頭公園の近くに“AHM”という四階建てのマンションがある。その最上階に住むオーナー・峰原卓の部屋に集まるのは、警視庁捜査一課の刑事・後藤慎司、翻訳家・奈良井明世、精神科医・竹野理絵の三人。彼らは紅茶を楽しみながら、慎司が関わった事件の真相を解明すべく推理を競う。毒殺されるという妄想に駆られていた婦人を巡る殺人事件、指紋照合システムに守られた部屋の中で発見された死体、そして三転四転する悪魔的な誘拐爆殺事件―精緻なロジックと鋭利なプロット、そして意外な幕切れ。本格ミステリ界期待の俊英が満を持して放つパズラーの精華。

   
この本には50ページの短篇2つと150ページの中篇が収録されている。物語は人物紹介などは極力少なく、マンションのオーナーと住人という説明はされているが、どうしてこのような推理合戦を始めたのか、などの説明は無い。3つの事件の前後を切り取った形式になっている。短篇はサクサクっと読みやすく、中篇は誘拐モノで緊迫感と推理合戦の楽しみが味わえる。本全体を通じて感じたのは、この作家さんは前提を壊す人だな、ということ。感覚としては驚天動地というよりもトリックアートに迷い込まされている感じです。えっ!?絵だったの?って(ダジャレじゃないです…)だから絵だと分かった瞬間に一気に絵としか思えないトリックも。騙す為に作られたんだな〜って思ってしまう。でも騙されるから楽しいんですけどネ(笑)

  • 「Pの妄想」…自分が家政婦に毒殺されるという妄想に駆られている古い屋敷に住む女主人。しかし神経を尖らせているはずの彼女が自室で毒殺された…。妄想に取り付かれているはずの主人が、なぜ毒を飲んだのかという事から派生する推理が楽しかった。これって島田荘司のアノ作品(もちろん言及はしませんが)に通ずる所があると思う。実は派手な(大掛かりな)トリックですよね。
  • 「Fの告発」…美術館の中の指紋照合システムで管理された部屋で発見された他殺体。管理システムの履歴によると死亡推定時刻に入室した人物は3人…。現代的なシステムとミステリの融合で面白いですね。いつまでも針と糸の時代ではありません。ただ生身の人間としては、このようなトリックは難しいと思います。そして容疑者ながら警察からの要請を断る事も無理なんじゃないかと思うのです。
  • 「Yの誘拐」…12年前、息子が誘拐され身代金を指定場所に置いたのにも関わらず息子は殺害された。その父親がネット上に発表する事件の顛末。犯人の一人は殺されるが共犯者の目星はつかない。共犯者は誰なのか?マンションの4人組が私的に捜査を始めて…。前の2作でも思ったのですが暇ですよね、この人たち(笑)オーナーと翻訳家は分かるとしても精神科医と刑事は京都には行かんですよ。やっぱり誘拐モノは小説上では面白いですよね(もちろん現実では痛ましい)。何転もする推理ですが私は「最後から二番目の推理」が「真実」でも良かったな。何だか氷川透さんの小説の題名みたい。真実には驚いたけれども、「ありがち」かな。出版元から考えても。それまでの雰囲気が壊れてしまった気もするし。

アルファベット・パズラーズ   読了日:2005年03月26日