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チョコリエッタ (角川文庫)

チョコリエッタ (角川文庫)

進路調査に「犬になりたい」と書いて呼び出しをくらった知世子。彼女が幼稚園年長組の夏休み、家族旅行の道中で事故に遭い、母は帰らぬ人となった。「死にたい」「殺されたい」、からっぽの心に苛立ちだけがつのる高校2年生の夏、映画研究会OBである正岡の強引な誘いで、彼が構えるカメラの前に立つことに。レンズの向こう側へあふれるモノローグが、こわばった心を解き放つ。ゆるやかに快復する少女を描いた珠玉の青春小説。


映画に囲まれた、映画のような物語。多くの説明を排除しながらも、そこに漂う空気を的確に感じられる描写が印象的。それは通して一本の映画として見た時、とても清冽な感じを与える。正宗に負ぶわれながら走るシーンや、夏の川・バイクから見る花火など、とても綺麗な映像を浮かび上がらせてくれた。
主人公・宮永知世子は幼い頃、家族旅行中に母を交通事故で亡くし、それ以来、父とは顔を合わせない日々が続く。唯一の友達だった犬のジュリエッタも先ごろ死んでしまい、十年に亘って家に住み母代わりをしてくれた父の妹・霧湖ちゃんも結婚して家を出たいと思っている。皆いなくなってしまう現実だから、知世子は犬になりたい。名前はチョコリエッタ。チョコリエッタは喋れるし、映画も見る…。
死んでしまった犬のジュリエッタと、犬になりたいチョコリエッタ。書き出しから面白い。誰もがカラフルに自分を装いたい高校生の中で、モノクロの知世子は浮いているんでしょうね。また、浮いているからこそ目立つのでしょう。そんなちょっと危うい雰囲気の魅力的な女の子。この作品では出てくる映画と役名・出演者の名前が上手く使われている。春に知った父と母が見た映画の名前、その映画を撮った監督と女神。人を殺したいと思っていた正岡正宗と殺されてもいいと思うチョコリエッタ。夏の陽射しの下でカメラを回す正宗と写されるチョコリエッタ。そして知世子が撮る秋の海の自分、自分の周囲。短い作品の中で様々なエピソードが重なる。そして映画は変わらない。知世子が完成させる映画も、きっとずっと変わらずに存在し続けるのだろう。チョコリエッタはそこで永遠に生き続ける。

チョコリエッタ   読了日:2006年06月13日