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無法地帯―幻の?を捜せ! (双葉文庫)

無法地帯―幻の?を捜せ! (双葉文庫)

空前の「食玩」ブームにより、400万円のプレミアがついたレアグッズをめぐり、殺人事件が起きる。怪獣大好きヤクザ、食玩コレクターの私立探偵、モラルゼロのオタク青年。幻の?を奪い合う、仁義なき戦い。勝者は誰だ!? オタク道35年の著者がおくる、情熱の書き下ろしミステリー。


過剰なまでに発達した現代の商業社会は、様々なジャンルの細分化を促進し、その中に新たな価値基準を創出する。本書がその一例。小説世界の中のミステリというカテゴリの中に、また一つ新しいジャンルを生み出した。そのジャンルの名は…、ハードボイルド・オタク・ミステリ!!
反対語。強いと弱い。体力と知能。さて皆様はオタクと聞いてどちらの言葉を連想するだろうか? 多分、どちらも後者だろう。弱いけどけれど賢い。けれど本書の主役となる2人のオタクは違う。強く逞しいオタクたちである。その名は大葉と宇田川。彼らは好きな物(者)への執着心からある「お宝」の入手を余儀なくされる。
前述の通り、細分化された世界では独自の特殊な価値基準が発生する。そして重要なのは、その価値はその世界の住人でないと分からないと言う点。世間的には「お宝」といえば金銀財宝だが、本書の中では違う。本書の「お宝」は所謂「おもちゃ」である。しかしこの世界のそれは水戸黄門の印籠の如く効果を発揮する。そして、一般的にこの世界での価値の高さは競争率の高さに比例する。
しかし狭い世界で独自の価値基準を共有する者たちが集えば、そこに争いが発生する。我先に「お宝」を手に入れようとする者たちを制するのに必要なのはまず情報である。情報は腕力・財力よりも強い。インターネットなど不特定多数からの情報を活用する者、店舗を一軒一軒回る者、自分の築いてきた人脈やコネを使う者。時の恩を売り、時に駆け引きをしながら彼らは「お宝」の場所を特定していく。
また「お宝」ではない普通の収集物の収集方法にもオタクの個人差・性格が出てる点も面白い。大葉は食玩をまとめて買わずに1つ1つ買う。宇田川はレアアイテムの為には早起きして並ぶ。目的の為には手段を選ばない者もいる。そして更にはその世界の住人以外が、レアアイテムの現金化という普遍的価値を求めて収集に参加する。後者の2つの収集方法・目的は著者の嘆きが聞こえてきそう。どの世界にも秩序はあるべき。そんな中、大葉や宇田川の行動は多少(多々?)暴力的ではあるが、ルールに則った粋なオタク道であった。
ストーリーを楽しむと同時にコレクターの大まかな生態が分かった。その収集方法から、なぜ集めるかなど彼らの心情面も。私はこの世界の住人にはならないぞ、と心に決めながらも、子供の頃に遊んだ物・欲しかった物が頭をよぎる…。一番興味を持ったのはオタクの聖地「中央線沿線移動説」。吉祥寺→中野→新宿→秋葉原と東へ移動を続ける。次の聖地は千葉県突入か?
ミステリとしては「意外な犯人」が最も意外ではない人物だったのが少し残念。ちょっと怪しすぎ。しかし動機を含め背景となる世界観が統一されていたのは良かった。ラストはこの道の「粋」を教えられた気がする。オタクにもマナーを。ミステリ部分は「おまけ」みたいなものか。あとはチンピラが全員同じ人物に思えて誰が誰なのか混同する事も。いや、実は誰でもいいんだけどね…。

無法地帯 幻の?を捜せ!むほうちたい まぼろしの?をさがせ   読了日:2009年04月06日