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死体を買う男 (講談社文庫)

死体を買う男 (講談社文庫)

乱歩の未発表作品が発見された!? 『白骨記』というタイトルで雑誌に掲載されるや大反響を呼ぶ…。南紀・白浜で女装の学生が首吊り自殺を遂げる。男は、毎夜月を見て泣いていたという。乱歩と詩人萩原朔太郎が事件の謎に挑む本格推理。実は、この作品には二重三重のカラクリが隠されていた。奇想の歌野ワールド。


本書をカテゴライズすると「作中作モノ(勝手に命名)」になるだろう。江戸川乱歩の未発表作品と見まごうばかりの出来(と作中では絶賛される)の作中作『白骨記』が本書の多重構造の中核にある。そしてそれを外包する『白骨記』でデビューした新人作家・西崎和哉と伝説の作家・細見辰時の邂逅を描く現実のパートが存在し、更にそれら全てが細見の文章に包まれている。(多くの)「作中作モノ」は作中作単体でも簡潔しており、その上でのどんでん返しが用意されている点が楽しい所である。また本書では相互に進行する2つのパートが二重螺旋の様に絡み合い、読者の興味を最後まで途切れさせなかった。実際、二重三重の構造には二重三重の驚きと興奮が隠されてはいた、のだが…。
作品としては本格ミステリファンの心を確実に掴む技巧に優れた作品だとは思う。だが、そのアイデアに対してどうにも煮え切らない印象が残る。それは本書の最後の一文が象徴している。この分かるような、分からないような、狙ったけど内野安打みたいな切れ味の鈍い一文だった。要するに(ネタバレ:反転→)死体=死んだ事になった本当の名前の自分、その自分のした罪を洗いざらい白状した小説を買い取って自分の作品として発表する事を所望する、という事なのだろう。そして最後の一文は、「作中作モノ」の本書の全てを包んでいた細見パートすらも包むように表紙に燦然と輝き、もはや本当の作者は誰なのかという「恐ろしき錯誤」を生むという構造になっている(←)のだろう。しかしその最後の一文はカタルシスを味わいたい読者の頭に残念ながら疑問符を残してしまった。
本書は全てが一つに繋がる事で、閉じられてしまった気がした。とても技巧的であるが故に、内的、作為的、虚構的といったマイナス因子が悪目立ちしてしまった。全てが小説内で収まった事がわかった事で、現実の、読者の心理に何も影響を及ぼさなくなってしまった。「作中作モノ」の欠点はこれかもしれない。
また現実の著名人たちの活躍、乱歩作品のパスティーシュなど、意欲的な試みの裏で読者を選ぶ難しさもある。私は乱歩素人なので文体や論理にどの程度、乱歩イズム(?)が滲み出ているのか計り知れず作品を十全に楽しめていないという負い目みたいなものを感じた。更に殺人事件のトリックなどが、今時これを使うかという古典的な代物だったのも残念だ。時代に合わせたのか、乱歩に合わせたのか。北村薫さんによるクイーン作品に続き、「パスティーシュモノ」との相性は良くない。柳広司さんみたいに、パスティーシュではなく著名人が探偵として活躍するミステリだったら良かったのかも。「作中作モノ」であるはずの本書だが、どうも作中作でなければ良かったのに、という結論なのかもしれない…。

死体を買う男したいをかうおとこ   読了日:2011年04月16日