《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

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さらわれたい女 (講談社文庫)

さらわれたい女 (講談社文庫)

「私を誘拐してください」美しい人妻は、そう呟いて便利屋の手をにぎった。夫の愛を確かめるための"狂言誘拐"だというのだ。金に目がくらんだ俺は依頼を引き受けた。完璧なシナリオを練り脅迫を実行、身代金までせしめたが、そこには思わぬ落し穴が待っていた。二転三転、息をもつかせぬ超・誘拐ミステリー。


『ガラス張りの誘拐』に続く誘拐ミステリー。夫の愛を確かめるため自らを誘拐して欲しいと依頼する社長夫人の我が儘で狂言誘拐を手伝わされた便利屋。だが誘拐の最中に人質は何者かに殺され、便利屋は自らの保身のために殺人犯を追う、という息もつかせぬ構成。追われる者が追う者になり、追い詰められた鼠は猫を噛む。脛に小さな傷を負ったばかりに、必死でその手当てをしなくてはならなくなった小悪党の便利屋の様子は悲哀を誘うものがある。悪い事は出来ません。
リアルタイムの駆け引きがある誘拐という犯罪の特性もあるが、その後も最後まで一気読みさせられた。15年前の作品なので現在から見ると一昔前の技術と計画という感は拭えないが、当時のサービスを巧みに利用して足が付かないように交渉を進める狡猾な手段には舌を巻いた。そして主人公の立場が一変する中盤の、少ない手掛かりから推理と証明を重ねる様子も飽きさせない。
一つの他愛もない狂言誘拐から始まった賭けの勝者は誰になるのかを手に汗握って見届けた。最後の最後まで二転三転していく事件の様相に、頭もパニック寸前。しかし最後に語られる真相は全ての謎をしっかり消化してくれた。
真相には(ネタバレ→)事件の起こった順序が違う順序トリック(そんな言葉はないが…)と、それに加え叙述トリック(←)が使われている。遺体処理の杜撰さ(証拠・埋葬場所)や主人公への脅迫電話の声などは疑問に残るけど、複数のトリックに加え凝られた構成、そして人間の保身への執念は読み応え十分。
かなり面白かったが注文・疑問がもう少し。これまでの歌野作品はエピローグや後日談がないため、事件の結末・真相を最後の最後まで引っ張る事が多い。だから読者に最後まで息をつかせない一方、どうしても終盤に慌しい印象が残る。真相の整理が追いつかないのは、私の頭の最高速度の遅さも原因だろうけど。もう一つ、主人公が一度は見失ったアリアドネの糸を再び手にするタイミングがおかしい気がする。具体的には(→)事務所の社長の姓が栗原だという事(←)に気づくタイミングがその前の場面と合っていないように思うのだが…。
あと、前半で妙にキャラが立っていた小宮山隆幸の弟・正志は何だったのだろう…。目立ち過ぎて彼に目をつけていたけど、これはミスリーディングなのか?

さらわれたい女さらわれたいおんな   読了日:2007年09月20日