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ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

教えたら旦那さんほんまに寝られんようになる。…この先ずっとな。時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた…。岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典。


どの話も県内の南北の差はあれ共通の舞台は岡山、時代は明治期である。岡山にも鉄道が走るような近代的な時代でありながら、寒村に住む人びとは自然の恵みを受けて生き、また自然に翻弄されながら死んでいく時代。ちょうど同じ頃の時代が舞台である梨木香歩さんの『家守綺譚』を読書中にも思いましたが、舞台の明治時代というのは、今からほんの100年ほど前の話でありながら実際にこういう事があったと思える不思議な時代である。
読書中に思ったのは闇が濃い、女性が艶かしい、そして生者と死者の距離が近いということ。村に生まれたものは死んでからも村の墓に留まり続ける。その一方、まだ生者は地獄や極楽を意識しながら生きる。そういう風土や思想の中では、今の人知では及ばない出来事が起きても、不思議ではない。

  • ぼっけえ、きょうてえ」…表題作。語り手の話は語られるほどに眉を顰め耳を塞ぎたくなるのだが、同時に怪しく惹き込まれてしまう。姿のない旦那と同じく、最後まで全てを語って欲しいと思うのだ。話に呑み込まれた先に待っているのは「ぼっけえ、きょうてえ」。作中で語られる事件の動機は悲しくも観念的に美しい。たった40ページ余の作品なのに、長編を読んだかのように重い。憑り付かれたかな…?
  • 「密告函」…コレラが流行する山奥の僻村の役場に勤める弘三。仕事中、色々と噂の絶えない女・お咲と知り合い、遂に…。今回は山の話。閉鎖的な村の息苦しさと夜の闇の深さが印象的。周りにいる者が誰か分からないほどの闇の中では、隣に立つのが異形の者でも何の不思議もない。人の心の闇には何が棲むのか…。
  • 「あまぞわい」…岡山の酌婦から「あまぞわい」で知られる島の漁師の嫁になったユミ。だが島に来ると夫は暴力を振るい…。今度は海の話。子供の頃に嫌っていた、怖がっていた存在になってしまった自分。天狗や海坊主、この「あまぞわい」の話は人に恐怖を与えて、無茶な行動の抑止力になるシステムでもあろうに…。
  • 「依って件の如し」…歳の離れた兄と二人で暮らすシズだったが、兄は戦争に出兵し帰らなかった。そんな頃、村に事件が起きる…。これも山の話。今回も怖い話なのだが現実的で、ミステリのような謎解きがある。地獄に堕ちるのも、化けて出てくるのも、その原因を作るような悪行をするのも、やはり人間なのである。

ぼっけえ、きょうてえ   読了日:2006年08月17日