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死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

7日間の調査で人の死は決められる…。主人公はちょっとズレていて不死身の体をもち、ミュージックをこよなく愛するクールな死神。彼は淡々と人の死を決める仕事をこなしていくが、そこでであうひとびとの哀歓がなんとも読み応えたっぷり。恋愛小説風あり、ロードノヴェル風あり、ハードボイルドあり…。さまざまなスタイルを試みたこの作品集は伊坂幸太郎の可能性を知る一作。


ちょっと日本語の語彙力が不足しているが故に、天然ボケに見られる死神・千葉の6つの「仕事」のお話。死神で雨男で雪男の千葉ではあるが仕事は誠実にこなす。7日間で人とこんなに接近できるのかは疑問だけど、まさか自分が死ぬとは思っていない人間の日常の言動が描かれている。死を司る死神側から見る人間の行動の矛盾や人生観は、言われてみれば…という感じで面白い。そういう私も自分が当分の間は死なないと思ってるから、死神の話や人が殺されるミステリを読んでいるのだ。昨日、出会った人が死神とも知らずに…。なんてね。
(ミステリ的観点では)特に前半3作品が良かった。前半は千葉の死神という設定が上手く機能している短編。後半は人間ドラマの要素の方が強いか。

  • 「死神の精度」…表題作。調査対象の、苦情処理の部署で働く藤木一恵接触した死神・千葉。彼女はある1人のクレーマーで悩んでいて…。伏線に全く気づきませんでした。この結末は1編目にこそ相応しい。2編目以降にすると、あぁ今回はこのパターンね、と思われてしまう恐れがある。タイトルも素晴らしい。
  • 「死神と藤田」…敵対する組に単身乗り込む事で筋を通そうとするやくざの藤田だったが…。ハードボイルド風の短編。「死神の制度」を踏まえた上で(笑)、スタイリッシュと男気というともすれば相反する物を両立させている点が素晴らしい。
  • 「吹雪に死神」…吹雪の山荘に閉じ込められた7人の男女。情報部によると何人か人が死ぬらしいが…。まさかの伊坂さんの本格ミステリ風。これも死神の特性を踏まえた話で好き。千葉が隠し通した真相は本格ならば噴飯ものだろうか。
  • 「恋愛で死神」…ダサい眼鏡を掛けた萩原は向かいマンションに住む女性にカタオモイをしているのだが…。恋愛小説風。恋愛小説としてとっても好きなんだけど、千葉が常に隣にいるんだよねぇ…。今回ばかりは疫病神。ラストが悲しいよぉ。
  • 旅路を死神」…繁華街で人を刺し殺した森岡と北に車を走らせる千葉…。ロードノベル風。長く感じる割にミステリのカタルシスは少ない。これは千葉が死神でなくても…。「反省しない若者」は伊坂作品で度々登場するが、一対一に対話して心情を吐露すれば心が安定していくのかも。渓流での千葉の台詞が良い。
  • 「死神対老女」…千葉の正体を見抜いた美容師の老女。彼女は千葉にある「一生のお願い」をする…。これはちょっとあからさまか。死を無機質に描いている様で、最後に温かい気持ちになるのだから有機質なのだろうか。読了したら必ず装丁を見てしまうだろう。惚れ惚れ。にしてもCDショップあるのかな…?

死神の精度しにがみのせいど   読了日:2006年12月22日