- 作者: 泡坂妻夫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: 文庫
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雲見番番頭の亜智一郎は、日がな一日ぼんやりと空を眺めている。だがそれは仮の姿であり、実際は将軍直属の隠密方であった。しかも彼を取り巻く人々は、かつての泡坂作品に登場した人物たちと、困縁浅からぬ関係が!?尊王攘夷に揺れる幕末で次々に起こる怪事件を、雲見番が粛々と解決してゆく連作短編集。
私の好きな「亜愛一郎三部作」の番外編ともいうべき作品。主人公・亜智一郎は愛一郎の祖先。智一郎と愛一郎は同じ血が流れているので、二人とも雲を好み、足が速く、真相が分かると白目を剥くなどの特徴が同じである。愛一郎シリーズを好きな人には思わずクスッと笑ってしまう描写が多い。解説によると他の登場人物も泡坂作品との関連が強いらしく、見つけ出すのも面白いかも。あと残された謎は、智一郎はこの後どうやって結婚したのか、って事ですかね。
時代物なので、多少読みにくく、現代ミステリよりも謎が弱い部分もありますが、時代物らしい時代の背景や考え方が上手く書かれていて、二重に楽しめました。特に時代が進むに従って騒がしくなってくる城外の描写が、上手く取り込まれていたように思う。この後、世は激動の時代を迎えるのかぁ…。どうなるんだ雲見番。
- 「雲見番拝命」…安政の大地震が江戸を襲う。が、将軍は怪我もなく、しかもなんと地震発生前から避難していたという…。亜智一郎の他、主要人物の登場と紹介、そして雲見番の結成。選ばれた者たちが集まるのは戦隊モノのようだ…。
- 「補陀楽往生」…目安箱に入れられた投書の真相を調査するために遣わされた雲見番。そして現地に入り聞いた、人を極楽往生させるという寺の噂…。結末で全てが一つになる感覚が良かった。江戸も現代も同じ悩みがあるのだと思った。
- 「地震時計」…将軍に献上された地震を予知するという地震時計。しかし亜は、その時計に疑惑の目を向ける…。今の時代にないのだから、ないであろう地震時計。でも科学的な知識が少ない時代、信じてしまうかも。重太郎が活躍します。
- 「女方の胸」…将軍・家定の先は長くなく、世継ぎもいない。跡継ぎ争いが熾烈になる一方、将軍に子供がいるという噂が出て雲見番は調査を始める…。この辺りから当時の社会情勢も組み込まれてきます。「あの方法」は本当なのだろうか?
- 「ばら印籠」…新将軍・家茂から雲見番に告げられたのは自分の写真を撮ってほしい、との願い。雲見番は方々に手を尽くして写真術を会得する…。無理にミステリにした感がある作品。ミニッツを秒だと思ったバカな私…。写真1枚20分か〜。
- 「薩摩の尼僧」…同じ年齢の少女が次々に行方不明になり、変わり果てた姿で見つかる。現場では同じ尼僧が目撃されているが…。この時代の連続殺人のミッシングリンク、そしてこの時代の殺人の理由。最後の展開には驚かされたなー。こういう風に史実と上手く絡ませるのが作者の腕ですね。唸らされました。
- 「大奥の曝頭」…大奥に流れる幽霊の噂。ある者は霊に憑かれ、ある者はしゃれこうべを見たという。真相究明のため亜と重太郎は大奥に…!?大奥に入るのは少女漫画的だとおもうけれど、噂ってこうやって流れるんだろうと関心した。