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双頭の悪魔 (創元推理文庫)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、各々の真相究明が始まる…。


再読。シリーズ第3弾。本書は前巻『孤島パズル』から通して読んだ方が登場人物、特にマリアの心理が分かりやすい。本書ではかなり多数の登場人物(主要な人だけで24人!)がいるのだが、今回は事件の舞台が2つに分かれている。一方の芸術家の村ではその名の通り芸術家が、その手前の村では各職業に就いた人たちが登場し、専門分野や職業から各人の区別が付きやすくなっている。人物の書き分けはデビュー作から向上しているのかな、と偉そうに思った。
前述の通り本書は川を隔てた2つの村を舞台に事件が起こる。そして英都大推理研の面々もまた二手に分かれてしまう。マリア・江神は芸術家の村に、その他大勢(笑)は手前の村で足止めを食らい、それぞれが事件に遭遇する。今回も舞台はクローズド・サークルになるのだが、完全な閉鎖空間になるのは芸術家の村だけ。手前の村は完全な閉鎖空間ではない(なので捜査機関が途中で介入する)。果たして推理研の面々は限られた容疑者候補の中から犯人を名指し出来るのか。もちろん江神&マリアグループは問題ないのだが、心配なのは江神さん不在のアリスグループ。しかし、それでも三人寄れば文殊の知恵。アリスと2人の先輩は頭をつき合わせて江神さんのような論理的な推理を試みる。本書では望月先輩がこれまでにない活躍を見せていたように思う。
それぞれの事件への丁寧な解決はかなり好き。派手なトリックは無いのだが、一歩一歩慎重に歩みを進めていき、最後には犯人の下にたどり着く着実性・堅実性が好ましい。思わぬ言葉や動作が伏線になっている点も、理詰めで犯人を特定する作品に合っている。しかし本書では犯人が判明しても、ある事が釈然としないままになる。犯罪を行えたのは推理から導いた結果、ただ一人。しかしその人物には犯行を決定付ける何かが足りないのだ…。
再読して最も意外だったのは、読了後の作品への印象が思った以上に悪いこと。初読の時は絶賛したはずの真相だったのに、再読ではラスト100ページの駆け足の速さに戸惑いを隠せなかった。もちろん真相がアレであるから、証拠も少なく証明が難しいのは分かる。けれど最初の2つの事件をあれだけ理詰めで思考していたのに、最後の推理は直感に近くて残念。その中で唯一理詰めで証明した3番目の殺人の謎も魅力に乏しく、事件発生から解決の短さだけが印象に残った。これまで視点が移る事によって冗長さから脱却していた長距離レース。だがその安定したペース配分をラストスパートで掻き乱してしまった。ネタバレに近い表現ですが、(反転→)最後に事件の両端を結んだ蝶々結びの形が美しくなかった(←)
本書では、まるでロミオとジュリエットのように引き裂かれたアリスとマリア。会わなかった期間も含め各々の心に微妙な変化が見え隠れする。これは単なる寂しさなのか、それとも愛しく思う気持ちなのか。他にも江神さんの過去、アリスの夢などシリーズを通して気になる文章も。果たして15年振りの次回作ではどうなるのか!?

双頭の悪魔そうとうのあくま   読了日:2001年10月15日