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孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

紅一点会員のマリアが提供した"余りに推理研的な"夏休み。旅費稼ぎのバイトに憂き身をやつし、江神部長以下三名、宝捜しパズルに挑むべく赴いた南海の孤島。バカンスに集う男女、わけありの三年前、連絡船の再来は五日後。第一夜は平穏裏に更けるが、折しも嵐の第二夜、漠とした不安感は唐突に痛ましい現実へと形を変える。晨星落々、青空に陽光が戻っても心は晴れない…。


再読。シリーズ第2弾。第1弾の『月光ゲーム』との繋がりは特に無し。今回のクローズドサークルは嵐の孤島モノというまたも「THE 本格」の設定。本書からマリアが登場。推理研で紅一点の彼女だが、気持ちの良い性格ですっかりメンバーに馴染んでいる。そしてシリーズにも新しい風を吹き込んでくれた。
書名通り、当初は呑気にマリアの祖父が孤島に遺したパズルに挑むはずだったアリスたち。が、嵐の夜が安穏とした空気を吹き飛ばす。殺人の凶器はライフル銃。南の島の楽園、治外法権的な性格が一転して惨劇を招く結果に。凶器としての銃は、性別や力の強弱は関係なく等しく人を殺せて、犯行時間も短い、そして犯行の証拠(利き手・指紋など)を残さない。ただ携帯に不向きで発砲と同時に銃声がするなどの欠点もある。一長一短の凶器は一体、誰の手にあるのか…。
序盤から各人の間に不和の種を蒔いてはいるものの、動機の面から考えると本当の容疑者は少ない。ただ小さな謎の種の蒔き方と、その収穫の仕方が巧い。1番目の事件の密室の謎とその答え、2番目の事件の小さな疑問からの大きな解決はその代表例。探偵、そして読者が知り得る限りの情報、残された事件現場の状況の中から犯人や被害者がとった行動を推理する。事件としての派手さは無いが、密室・ダイイングメッセージ・アリバイ、そのそれぞれの謎を一つずつ解決し、それを繊細に組み立てる手法が有栖川有栖らしい。小さな種を論理的に育て上げて、真実という果実を実らせる過程を目にするのは実に楽しい。
本書では真相披露のシーンが何よりも印象的。江神さんと犯人との一対一(アリスもいるが)の対面。関係者を一堂に集めた真相披露は探偵役の自意識過剰と共に、関係者に「ほぉ」とか「まさか」とか言わせたい作者の自意識を感じる場合もあるので、江神さんのスタンスは好感が持てる。もちろんアノ人への配慮でもある。
その真相披露の前に、江神さんは自分の正しさを証明する為ではなく、誤りの指摘を望んでアリスに自分の推理を話す。しかし彼は探偵として優秀で、その論理に間違いはなかった。有栖川作品、特に江神シリーズは犯人だけでなく事件を追及する側の遣り切れなさも魅力である。エピローグには、事件の残した悲しみや暗い影が払拭されない心の痛みがある。また面倒見がよくて頼もしい先輩の、内に抱えた孤独な葛藤が今後の気になるところ。初期の作品(江神シリーズ)はこの後の火村シリーズより、やっぱり好き。初期から気の強い癖のある登場人物は出てくるのだけれど、学生アリスには鬱屈した皮肉が見られない。彼らの学生という身分が青臭さを青春の匂いに変えているかもしれない。
解説はドイヒーなファンレター。キャラクタに恋するとテンションが上がって作品や作家を全肯定し始めるという典型的な暴走例。それは他所でやってくれ。次回作のネタバレもやめてくれ。恋は盲目、萌えは迷惑。頼むから他所でやってくれー。

孤島パズルことうパズル   読了日:2001年10月07日