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月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々。江神部長や有栖川有栖らの一行を、予想だにしない事態が待ち構えていた。矢吹山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、一瞬にして陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われでもしたように出没する殺人鬼。その魔の手にかかり、ひとり、またひとりとキャンプ仲間が殺されていく…。いったい犯人は誰なのか。そして、現場に遺されたyの意味するものは何!?


再読。作家・有栖川有栖のデビュー作にして学生アリスシリーズ第1弾。
再読しての感想は、目に付きやすい欠点・弱点を上手く補強してるなー、でしょうか。若さゆえにアイデアに突っ走った展開も、もう一つ実例を出す事によってカバー(しようと)している。もちろん、補強に補強を重ねるのならば根本的な欠点を除去すれば良いのに、とは思うけれど…。補強と増改築の連続で作品の見栄えは決して良くない。それでも作者の自分のプロットを大幅に変えたくないという意志を感じる。作中の学生アリスもだが、作者自身も色々と若い作品。
まず最初に目に付くのは登場人物の多さ。登場人物は全員大学生で全17人!(身内4人と最初の犠牲者が外れるにしても容疑者候補は12人)。それを作者は大学の学部による性格付けやあだ名付けをする事によって各人の特徴を出そうとしている。が、職業ならまだしも大学生の学部で性格付けは少し安易か。
今後の展開を予想すると悪趣味だとしか思えなかった2日目夜のマーダーゲームも、林という目隠しによって誰もが犯行可能な状態になる、という先例なのだろう。テントを離れた場所での出来事は当事者同士しか知らない、という事件の動機と探偵の盲点が出来る。これは同ゲームでの探偵役のアリス&理代コンビの失敗が実例。また明かされる動機は短絡的過ぎる感もあるが、これも主人公・アリスも同じ立場に置く事でその熱病ぶりが一応、理解できるようになっている。
ダイニングメッセージに関しては作中で「ダイイングメッセージは恣意的で解釈を人に押しつける」という台詞があったが、本書のが正にそれ。性急に「Y」と確定し、犯人への直接的な手掛かりなのに深く考察しない事が不自然である。この弱点に対してもダイイングメッセージ「Y」を2回登場させる事によって「Y」である可能性を高めている。が、本書にダイイングメッセージ要素が必要だったかは疑問。
他にも作者のアイデアへの固執に疑問が残る箇所がある。火山の噴火はクローズドサークル創出の為と割り切れるが、下山のタイミングはやっぱり遅い。食料事情も考えれば全滅もあるだろうに。しかもその上、殺人犯がいる割には集団パニックにもならないある意味悠長な人たち。ここら辺は殺人の長期化、ドラマ性の演出を期待する作者の悪意を感じる。また犯人の行動で最も疑問に思うのは(ネタバレ:感想→)死体から指を切断するならば、どんな方法を採っても切断した指から指輪だけ取れる(←)と思わざるを得ない。残虐だけど、そうするのが自然だろう。
急ぎ足のエピローグ、アリスのあの結末は青春の匂いがするが、事件の結末としてはかなり雑。噴火による遭難・連続殺人なら警察から尋問受ると思うのだが。彼らはどう説明したのだろうか。 少し詩的でペダンチックな世界観は既に垣間見られるが、やはりデビュー作という無骨な箇所も少なくない。

読了日:2001年10月02日