- 作者: 荒川静香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/11/17
- メディア: 単行本
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この1冊であなたもフィギュアスケート通。「オリンピックで金メダルを取るのは誰?」「ジャンプの回転不足は、なんで大きな減点になるの?」「コーチって、どんな人?」金メダリストが伝授するフィギュアスケートの正しい見方とは? わかりづらい採点ルールから、選手たちのとっておき事情まで、フィギュアスケートの不思議や疑問を、荒川静香がすべて解決します。
フィギュアスケートの旧採点方式での最後の世界選手権優勝者で、新採点方式採用後の最初のオリンピック(@トリノ)で金メダルを獲得した経歴を持つ荒川静香さん。現在はプロスケーター、そして解説者としてご活躍の荒川さんが、ルール改正に苦しんだご自身の経験と共に、現行のルールを分かりやすく解説。「Lesson1」では新採点方式の説明を中心に競技の基本的なルールを説明。続く「Lesson2・3」は現在活躍する有力な男女シングルの各選手の特徴と魅力を解説し、出版(09年11月)後に控えたバンクーバー五輪の展望と期待が併せて記している。「Lesson5」は縁の下の力持ちである名コーチたちに焦点を当て、最後の「Lesson4」ではよくある質問に対する荒川さんの答えが載せられている。
私が最も感心したのは、荒川さんが本書の中で終始、訴えている『フィギュアスケートを思いっ切り楽しみましょう』という観戦の姿勢。フィギュアスケート熱が高まり選手以上に勝ち負けや得点に拘るファンに、優しくも厳然と釘を刺しているような気持ちがした。ルールを始めフィギュアスケートに関する様々な事の造詣を深めれば、観戦の楽しみ方の幅が広がるのではないか、という考えが荒川さんの執筆理由である。彼女はこう言う。フィギュアスケートは『人と争うスポーツではありません』、選手は『自分との戦いに集中できるかが大事』なのです。
しかし採点に関しては旧採点も新採点方式も結局はジャッジの匙加減では?という思いは荒川さんにもある様子。公平性を追求した新採点でも判断を下すのは人であり、芸術面は感性であるから深く掘り下げるほどモヤモヤが残る。だから荒川さんはルールに対応・理解しつつも、選手側は「自分と戦い」、観客側は純粋に「楽しむ」という姿勢が競技を100倍楽しく見る方法だと言う。
「特定の選手に対するジャッジが甘いのでは?」とか「6分間練習で故意に他選手と激突する選手はいるのか?」などの質問には思わず、特定の選手の姿が浮かんできた。勿論、選手の名前を発表などしていないが、紙背に荒川さんの真意があるのかと深読みしてしまう。褒め言葉として本書は優等生的な文章と内容だが、ここはチクリと言っているのかな?と思う箇所が幾つかあった。
荒川さんが2つのメダルをもたらしてくれたタラソワコーチとモロゾフコーチに今でも多大な感謝の意を何度も示していたのが印象的。またトリノ五輪への挑戦の日々を読んで、新採点方式という革命的な変化に自ら最善の道を模索し続けた荒川さんだったからこそ、最高の結果が付随したのだと彼女の強さを再認識。
少々生意気な発言だが、荒川さんの解説は年を王ごとにメキメキ上達している。本の中でご自身でも反省していたが、確かに解説1年生の時は解説というよりもジャッジの目線に近く、回転不足・エッジの間違いなどマイナス面を多く指摘していた。しかし解説4年生である09-10年シーズンでは選手への愛情が伝わり、言葉選びも端的で、短い時間の中でも言うべき事はしっかり発言するようになっている。競技や選手への今の気持ちを文章に纏め、書を記した事は、解説者・荒川静香にとって大きなプラスだったのではないか、とまたも生意気に思った。
余談:フィギュアスケート本では「コーチの神様」佐藤信夫コーチと「お母さんのような」佐藤久美子コーチの共著『君なら翔べる!』もお薦め。