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黒猫館の殺人 (講談社文庫)

黒猫館の殺人 (講談社文庫)

6つめの「館」への御招待。自分が何者なのか調べてほしい。推理作家鹿谷門実に会いたいと手紙を送ってきた老人はそう訴えた。手がかりとして渡された「手記」には彼が遭遇した奇怪な殺人事件が綴られていた。しかも事件が起きたその屋敷とはあの建築家中村青司の手になるものだった。惨劇に潜む真相は…。


驚ききれなかった作品。巷間で指摘されているように、「某作品(ネタバレ反転→)島田荘司さんの『眩暈』(←)」との類似点が多く、私が読んだ順番は「某作品」→「本書」だったので、驚嘆や興奮よりも類似点ばかりに目がいってしまった(刊行順は「某作品」より6ヶ月だけ「本書」の方が早い。順番の悲劇)。もちろん、そもそも本書に仕掛けられたトリックは驚きを第一に考えられたトリックではないという事も考慮しなければならない。掛け声の「3,2,1」で一枚の大きな絵画を突如出現させるマジックのような手法ではなく、作中の鹿谷の言葉を借りるならば、パズルのピースが手際良く合わせて一枚の絵画として浮かび上がらせる快感が本書のトリックの特徴だろう。ただ一つ問題なのは、やはりその作業は地味に見えるという事。特に、前の館である『時計館』が非常に派手でストレートな作品だったので、その対比を運命付けられた直後の作品としては変化球過ぎたのではないだろうか。審判によってはボール判定だ。
私の不満の大部分は、ミステリのメインともいえる殺人事件の真相であろう。いくら本書が殺人事件を中心に据えてないとはいえ、あの真相では三文ミステリである。メイントリックだけでなく、サブにもこだわりを見せて欲しかった。
それでも良かった点は、小説の面白さを感じられた所。読書中に頭の中で描いている想像が必ずしも正解ではないという事を思い知らされた。ネタバレになるので文字を消すが、(ネタバレ:反転→)言葉によって読者の頭の中の時間・視点を瞬時に移動させ、物体を出現・消失させる小説(端的にいえば叙述トリック)の醍醐味を味わえた。瑣末な事だが、私はあの晩の館の周囲に雪が降っていたと知った時の、頭の中で一変する風景に感動を覚えた(←)。想像力と、想像力を裏切る文章が面白かった。作者は読者の想像力を巧みに操り、読者はその操縦技術に酔いしれる。
この後、「暗黒館」「びっくり館」が登場するまで長い間(12年間!)、最新館だった「黒猫館」。この12年間、「館シリーズ」といえば全部でたったの6作だったのだ。たった6作でミステリ界で伝説を築いた綾辻さんとこのシリーズ。ここまで読んで思った事は、ミステリの面白さ、バリエーションの多様さを余す事なく伝えたシリーズであるという事。ようやく国内ミステリの「基本」を押さえたという感じです。

黒猫館の殺人くろねこかんのさつじん   読了日:2006年11月08日