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人形はライブハウスで推理する (講談社文庫)

人形はライブハウスで推理する (講談社文庫)

鞠小路鞠夫(まりこうじまりお)。私、妹尾睦月が想いを寄せる内気な腹話術師・朝永嘉夫(ともながよしお)さんが操る人形の名前です。でも彼にはスゴイ秘密があるんです。そう、彼は世界唯一の“人形名探偵”だったのです…! 満を持して放たれるシリーズ最新作。本格テイストが横溢(おういつ)する傑作短編6本を収録。ノベルス版の巻末にはあのいっこく堂との対談も収録!


シリーズ第4弾。第3弾が91年発売で、本書が01年出版なので約10年の間隔が空いている。しかし10年振りの再開ではありますが、「おむつ」の一昔前の少女漫画のヒロイン的な感性はそのままだし、朝永さんも決める所で決められない損な性格のまま。腹話術人形の鞠夫の毒舌も健在でこの3人(?)の奇妙な会話はやっぱり心地良い(まぁ私の場合、読書の間隔は半年しか空いてないのですが…)
恐らく多くの読者がミステリよりも、おむつと朝永さんの関係に関心が移っているとは思いますが、それにしても本書のミステリは小粒過ぎるような気がする。練りに練られたトリックというよりは頭に飛来したワンアイデアで短編をこしらえた印象が拭えません。シリーズ初期からコミカルな作風ではありましたが、ミステリとしてはもっと本格テイストに溢れていたのに…、と残念に思う。本書の多くの短編が緻密というより大雑把な犯行で、名探偵がわざわざ関与するに相応しい事件とは言えない。またシリーズも4作目だから仕方ないのだが、おむつたちを殺人事件に関与させる方法が少々強引であるようにも感じられた。

  • 「人形はライブハウスで推理する」…表題作。睦月の弟・葉月が突然の来訪。翌日、一人都会を満喫する葉月だったが殺人事件に巻き込まれて…。睦月・葉月という名前が良いですね。ミステリとしては現場検証をすると見せかけて読者を真相から遠ざけている、という変な仕掛け。優しいけどデリカシーのない朝永さん。
  • 「ママは空に消える」…幼稚園の送迎が母親から父親に代わった園児の家庭。園児に母親の所在を聞くと「お空の上の…」と答える。母親はどこに…!? まさか、このネタ(なぞなぞ?)で来るとは…。謎は単純だが事件の背景は複雑な短編。
  • 「ゲーム好きの死体」…自室で殺された被害者の周辺から消えたのはゲームソフト一枚だけ。犯人はなぜゲームソフトを…? ゲーム好きなのは作者か。ただ、警察内の誰一人として真相(トリック)に気付かなかったのかは疑問が残る。
  • 「人形は楽屋で推理する」…園児20人と保護者4人と先生2人で人形劇を観に向かった公民館。だが観劇中に園児が一人居ない事に気づき…!? 彼の失踪の動機は察せられるが、トリックにはなるほど、と膝を打った。一方、おむつは(→)マリッジブルーに突入中(←)。おむつの心理描写はとてもくすぐったい!!
  • 「腹話術志願」…朝永さんに弟子入り志願する青年・大河原。だが数週間後、彼にコンビニ強盗殺人の容疑がかけられてしまい…。あれれ、この設定『某作品(※ネタバレかも)』に類似している。出版はアチラが先。コチラはトリックにもう一捻り加えてありますが「既視」感は拭えません(偶然、言葉遊びになった(笑))。
  • 「夏の記憶」…中学生の時に転校したおむつの親友。だが彼女が転校する前後には二人の関係がギクシャクしたものに。その理由が分からないおむつは今も悩むのだが…。本シリーズのほのぼのした雰囲気と合っている日常の謎。伏線もしっかり張ってあって、実はミステリとしての完成度が本書の中ではかなり高い!?

人形はライブハウスで推理するにんぎょうはライブハウスですいりする   読了日:2008年05月25日